ニュース

JAL、電動GSE車両のみによる荷物の積み降ろし作業を公開

JALグループが推進する二酸化炭素排出削減の取り組みの一環として、電動のハイリフトローダーとベルトローダーを導入。実際に作業している様子を取材した。

文:本誌編集部 写真:本誌編集部
X Facebook LINE

 JALは1月27日、羽田空港で2024年12月17日から運用を開始している電動ハイリフトローダー、電動ベルトローダーを利用した荷物の積み降ろし作業を報道公開した。

 JALグループの事業においては航空機から直接排出される二酸化炭素(CO2)が全体の99%を占めるが、残る1%についても削減を進めている。その一環として取り組みが進んでいるのが航空機を運航する際のグランドハンドリング(地上支援)作業にあたる車両、いわゆるGSE車両の二酸化炭素排出削減だ。

 このアプローチとして、車両の電動化、バイオディーゼル燃料のような代替燃料の使用を広げているほか、JALUXを事業者として、退役した航空機牽引用トーイングトラクターをFCV(燃料電池車)化するプロジェクトも進められている。

 車両の電動化については、2024年度に羽田空港、成田空港でコンテナなどを運搬するトーイングトラクターを導入済み。航空機牽引用のトーイングトラクターについても、成田空港でトーバーレスのハイブリッド車両、那覇空港で電動車両を導入している。

福岡からJL306便として到着し、JL909便として出発するエアバスA350-900の作業にあたる、電動のトーイングトラクター、ベルトローダー、ハイリフトローダー×2台。

 そして、12月に新たに導入したのが、電動のハイリフトローダーとベルトローダーだ。前者は国内初導入。後者は全日空モーターサービスがディーゼルエンジン車から電動車へアップサイクルした車両をANAグループが使用した例があるが、EVとして新製された車両を導入するのは国内初の例となる。

 導入する電動ハイリフトローダーは、TREPEL社(ドイツ)製の「CHAMP 70Se NEO」。電動ベルトローダーはEINSA社(スペイン)製の「CEA14」。前者はディーゼル車両ではJALグループを始めとして国内導入実績が多いが、後者はJALはもとより、東南アジアへ初進出するメーカーとなる。

電動ハイリフトローダー。TREPEL社(ドイツ)製の「CHAMP 70Se NEO」。
リチウムイオンバッテリー(青い部分)。
電動ベルトローダー。EINSA社(スペイン)製の「CEA14」。
JALロゴの入ったパネルの中にリチウムイオンバッテリーを搭載している。

充電器をオンボード搭載。三相200V電源を接続するだけで充電可能

 今回導入の決め手となったのは、JALがリクエストした、充電器をオンボード搭載する仕組みに対応した点にある。国内におけるEV充電規格はCHAdeMOやCCS(Combo)1/2などがあってはっきりと統一が図られていない状況にある。そのため、空港会社がインフラとして設置する充電器によって、導入したい車両が利用できないケースも発生する可能性があることが課題の一つになっている。

 JALが導入した車両は、いずれも充電器とバッテリーを車両に搭載。三相200V(60A)の電力を供給すれば充電できる仕組みになっている。プラグはアメリカンロックを採用し、ケーブルはハイリフトローダーが20m、ベルトローダーが30mのケーブルをリールに巻いた状態で搭載している。長さが異なるのは定められた駐車位置と電源までの距離が異なるためだ。

プラグはアメリカンロック。200V/60Aの電源に接続するだけで、車両に搭載された充電器を介してバッテリーへ充電できる。
3番スポット搭乗橋の付け根に日本空港ビルデングが整備した電源設備が設置されている。
充電時はリールに巻かれたハイリフトローダーの電源ケーブルを延ばす。
電源に接続するだけでチャージが可能。

 フル充電からの動作時間は、ハイリフトローダーで約半日、ベルトローダーで約2日間という。走行時の消費が多く、リフトやベルトの動作はそれほど消費しないという。また、導入車両はいずれもリチウムイオンバッテリーを採用しており、いわゆる継ぎ足し充電も可能だ。将来的に充電用の電源口を備えるスポットが増えれば、車両の移動を減らせ、電動車両の稼働率を上げることができるというのがJALの見立てだ。

 今回の報道公開では、3番スポットでフル充電したうえで、9番スポットへ移動してA350-900の荷物の積み降ろしを実施。再び3番スポットへ戻って充電するという流れで車両が運用されたが、再充電開始時点のバッテリー残量は85%と、単純計算で充電なしでも6往復は可能な消費量だ。消費電力が多いという“走行”を減らすことで稼働率が飛躍的にアップすることは想像に難くない。

9番スポットでのターンアラウンド後に再度充電した際のハイリフトローダーの充電容量。15%ほど使用したことが分かる。

 また、トンネルなどの坂道が多い羽田空港では、現在のディーゼル車両の標準仕様では坂を登れないケースがあり、オプションで増強モーターを追加して対応しているというが、電動車はトルクが大きいため、こうしたオプションを必要とせずに坂道を登れることが確認できているという。

 さらに電動車両の利点として静寂性も挙げられた。航空機への電源供給がGPUに切り替わり、エンジンが停止してしまうと、車両のエンジン音はまったく聞こえない。特にディーゼルのハイリフトローダーでは、リフトアップ/ダウン時にかなりの音がするが、そうした音も皆無だ。

 逆に車両の接近に気が付かないなどの心配もあるが、当然その点は検討段階でも挙がったそうだ。ただ、空港全体としてはそれほど静かではなく、周囲に十分な注意を払って作業を進めていることから、走行音が静かであることに対してのリスクは問題ないと判断された。

実際に電動ハイリフトローダーが作業していても、見た目は普通の作業と変わらない。
GSE車両が稼働しても非常に静かなことで、電動車両が使用されていることを実感できる。

 このほか、JALグループでは3月以降に電動のリモコン式トーバーレストラクターも導入を予定している。これはANAがすでに導入しているものと同じく、Mototok社製の「SPACER 8600」シリーズで、羽田空港と伊丹空港に配備する。3月に羽田、伊丹に各1台。9月にさらに各1台を追加する予定という。

 JALグループでは今後、既存車両の更新のタイミングに合わせて環境対応車両の導入を進めることになるが、電動車両については各空港の充電設備についての調査を進め、設備がある空港には順次導入していきたいとしている。

JALが3月以降の導入を予定しているリモコン式トーバーレストラクター。Mototok社製の「SPACER 8600」シリーズ。
このリモコンでラジコンのように車両を操作してプッシュバックする。
JALグループが推進する二酸化炭素排出削減の取り組みの一環として、電動のハイリフトローダーとベルトローダーを導入。実際に作業している様子を取材した。

関連キーワードもチェック!

関連リンク