連載
航空ガソリン不足に立ち向かうディーゼルエンジン~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
旅客機と比べるとプロペラの軽飛行機は地味な存在かもしれない。しかし、エアラインパイロットも、はじめは皆こうした飛行機で操縦訓練を受け、空を飛ぶことのむずかしさと楽しさを知る。
プロペラ機には、自動車と同じ仕組みのレシプロエンジンを装備するものと、ジェット(タービン)エンジンと同じ仕組みのターボプロップを装備するものがある。いま日本を飛んでいるプロペラ旅客機はすべてターボプロップだが、軽飛行機で使われているのはほとんどがレシプロエンジンだ。
ターボプロップには、大出力を軽量コンパクトなエンジンで発生できるというメリットがある。ただし価格や維持費が高く、それは運航費に反映される。そのため、せいぜい200馬力未満の訓練機にはレシプロエンジンが使われる。ところがその燃料である航空ガソリン(アブガス)が、特に日本国内では入手しにくいという問題がある。ターボプロップを含むジェット機用の燃料はあるが、アブガスは置いていない空港が多いのだ。
たとえば大分空港もそんな空港のひとつだ。ここに訓練センターを置いている本田航空は、特別に燃料会社に依頼して遠くからアブガス積んだ給油車を置いてもらっている。もちろん使用事業や趣味で軽飛行機を飛ばすにも、アブガスの給油は深刻な問題だ。
また一般的な100LL規格のアブガスは鉛を添加していることから、国際的にも無鉛燃料への代替が模索されている。また近年は、ジェット燃料でも回るレシプロエンジンも開発されている。それが航空用ディーゼルエンジン(エアロディーゼル)だ。
ディーゼルエンジンは燃費がよく、ガソリンよりも安価な軽油でも回るという利点がある。初期の航空界では主に飛行船のエンジンとして使われたが、ガソリンエンジンよりも重く、振動が大きいという欠点があるため姿を消した。一方で自動車用ディーゼルエンジンは発展を重ね、かつてのようなトラックやバス用だけでなく乗用車用としても広く普及している。これらをベースに、新たなエアロディーゼルが開発されるようになったのだ。
エアロディーゼルは、自動車用ディーゼルエンジン同様に軽油(欧州規格のEN590)で回るだけでなく、ジェット燃料も使えるというのが特徴だ。ジェット燃料の主たる成分は灯油(ケロシン)であり、これは軽油と性質が近いので意外ではない。そしてジェット燃料が使えるならば、空港における給油の心配はほぼ解消する。
エアロディーゼルを装備した代表的な機体はダイヤモンドDA42で、本田航空(法政大学パイロットコースなどの訓練を受託)や崇城大学パイロットコースの訓練機としても使われている。
また海上保安庁が訓練機として導入したセスナ172S(JET-A)もディーゼルエンジンを装備している。
いずれも航空用ガソリンエンジンと比べると歴史が浅いだけに、しばしば改善命令が出されるなどの苦労があるようだが、先行きが不安視されるアブガスに頼らないエンジンとしての期待は小さくない。
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