連載
「V1」を超えたら、エンジンが故障しても離陸を継続する ~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
飛行機には、失速速度とかフラップやランディングギアを降ろしてもいい速度など、いくつもの速度が決められている。それらは速度(Velocity)を示すVに、意味を表すアルファベットを組み合わせてVスピードと呼ばれている。
たとえばVNEのNEは「Never Exceed」で、決して超えてはならない速度(超過禁止速度)を示す。ちなみに物理用語では「Velocity(速度)」と「Speed(速さ)」は意味が違うのだが、飛行機を飛ばすうえではあまり区別していない。

さまざまなVスピードの中でも、飛行機マニアがよく耳にすることがあるのは離陸時の「V1(ブイワンと読む)」や「VR(ブイアール)」、そして「V2(ブイツー)」ではないだろうか。
V1は離陸決心速度、VRは機首を引き起こす(Rotate)速度、そしてV2は失速までの余裕などを考慮して安全に上昇するための目安となる速度だ。

旅客機は1つのエンジンが故障しても飛べるように作られているが、最初から故障したままで飛ぶことはないし、まだ低速のうちにエンジン故障したら離陸を中止した方が安全だ。
しかし速度が速くなると停止するための距離が長くなり、滑走路内で停止することができなくなってしまう。どのくらいの速度までならば安全に停止できるかは、機体の重さや滑走路の長さ、路面の状態などによって変わる。機体が重いときには停止距離も長くなるし、路面が濡れて滑りやすいときにも長くなるだろう。
そこで、そのときの状態からどの速度までならば離陸を中止し、どの速度を超えたならば離陸を継続するかという判断の目安となる速度をV1としてフライトのたびに計算するのである。

もちろんV1を超えてエンジンが故障した場合に、残った滑走路でちゃんと離陸できるかということも考慮しなくてはならない。これは滑走路の端までに車輪が地面を離れればいいというのではなく、滑走路の端で地面から35ft(約10.7m)の高度とV2速度に達していることが求められる。
V2というのは双発機の場合には失速速度の1.13倍で、これ以上ならば失速しないで上昇できる。ここで注意しなくてはならないのは、エンジンが故障した場合には残るエンジンの推力でこの高度と速度に達しなくてはならないということで、当然ながらすべてのエンジンが生きているときよりも必要な距離は長くなる。

こうしたことを考慮しながら決められるV1の値は、ひとつとは限らない。
たとえば滑走路に十分な余裕があれば、かなり遅い速度でエンジンが故障したとしても残るエンジンで離陸を継続することは可能だろう。逆にかなり速い速度から離陸を中止することも可能だろう。
ただし一般的には、その速度から離陸を継続するにしても中止するにしても、同じだけの距離が必要な速度をV1にすることが多く、このとき必要な滑走路長は最も短くなる。


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