連載
飛行機は繊細な乗り物。高い強度と軽量化を両立するためには? ~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
飛行機は軽く作られている、といっても多くの人には実感がないだろう。とりわけ大きな旅客機はとても頑丈そうだし(そうでなければ乗客としても不安だ)、軽いといわれても大型機では数百トンもある。
ところが窓の外を見ると、主翼の上に黒い線と「NO STEP(踏むな)」という文字が書かれている。これは主に整備士のために書かれたものだが、「黒い線よりも外側は弱く作られているので上に乗るな」という警告だ。
旅客機を飛ばすほど大きな揚力を発生する主翼が、一部とはいえ人間の重さにも耐えられないというのは驚きである。


それはどういうことなのかとわかる展示が、成田の航空科学博物館にある。ここには747のJT9Dエンジンが、それを吊るパイロンや切断された主翼と共に展示されている。そして主翼の切断面で、使われている板の厚さを見ることができるのだ。
主翼で主に強度を受け持っているのは、前縁と後縁を除いた中間部分(上下の外板にZ断面の縦通材がついている部分)だ。
上下の外板の前方と中央、後方をそれぞれ縦に結ぶ壁のような板が桁で、桁に直角に取り付けられている板をリブという。これら外板と桁、そしてリブを箱のように組むことで強固な構造(ボックスビームという)を実現している。柔らかい紙でも箱にするとがっちりするのと同じだ。

ボックスビーム部分の外板もあまり厚いとはいえないが、さらに縦通材でも補強されているので上を歩くくらいは問題なさそうだ。それに対して、前縁や後縁部分は翼の形を滑らかに整えるのが主な目的なので、それほど大きな強度は必要とせず、使われている外板も驚くほど薄い。
なるほど、これでは「NO STEOP」という注意書きが必要になるのも無理はないと思える。

ちなみにこうした注意書きは、つまり踏んではならないほど弱い部分は旅客機以外にもある。たとえば超音速で飛び、最大9Gもの急旋回が可能なF-15イーグル戦闘機にも、たくさん書かれている。

さらに小さな飛行機やグライダーでは、踏んではいけないところの方が多いくらいで、コクピットに乗り込む際には決められた場所しか踏まないよう注意が必要になる。

それと比べると無造作に機内を歩き回れる旅客機はかなり頑丈といえるが、実は客室の床も多くの乗客が想像するよりはずっと薄い。これも航空科学博物館に展示されている747の胴体断面で見ることができるだろう。


関連記事
関連キーワードもチェック!