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JAL、グラハンスタッフを雷や熱中症から守るトレーラーハウス導入。被雷予測ツール「Lilac」も紹介
航空機の安全運航と地上作業員の保護を目的とした雷への対策。JALは、羽田空港などのランプエリアに、落雷時の安全確保と冷房を兼ね備えた退避用トレーラーハウスを導入。上空では誘発雷を予測し回避を支援するツール「Lilac」を活用するなど、地上と上空双方で雷対策を進めている。
JALは8月19日、報道関係者向けに、航空機の運航と地上作業における雷対策の説明会を実施した。落雷がもたらす運航への影響は大きく、地上の作業員と上空の機体の双方を守る取り組みが不可欠。今回、ランプエリアにおける雷注意報の運用や退避用トレーラーハウスの導入、さらに上空での被雷予測ツール「Lilac」について説明があった。
地上における雷対策として、空港のランプエリアにおけるグランドハンドリングスタッフや整備士などの安全確保を優先している。羽田空港などでは、雷発生時に人身事故を防ぎ、作業の安全を図ることを目的に雷注意報や警報を発令するようになっている。
具体的には、空港を中心とする半径50km以内で雷雲が観測され、接近する可能性がある場合は「Thunderstorm Warning(雷注意報)」が発令される。さらに、雷雲が半径おおむね20km以内で観測された場合、あるいは雷鳴や雷光が確認された場合は「Thunderstorm Warning Condition 1(警戒)」。そして、雷雲が半径おおむね8km以内で観測された場合、または空港付近で雷鳴や雷光が確認された場合は「Thunderstorm Warning Condition 2(危険警報)」が発令される。“Condition 2”が発令されると、ランプにおける発着作業はすべて中止され、作業者は機内や車両内、屋内へ退避することになる。
これらの警報は、空港オフィス内のステーションコントロールから各現場のスタッフへ伝達される。ステーションコントロールでは、IP無線や可搬無線を使用した一斉放送をはじめ、カンパニーラジオやACARSによる運航乗務員への通知、整備や搭降載部門への電話連絡、チャットツールを用いた通知など、複数の手段を用いて全体へ作業中断と退避の指示を出す。
とはいえ、ランプエリアには逃げ場のない環境があるため、作業員が雷雨時に退避し、命を守るための場所としてトレーラーハウスが8月13日に導入された。このトレーラーハウスには熱中症対策としてクーリングを行なう目的も兼ねている。こうした設備を導入するにあたっては国土交通省 航空局とも調整し、GSEとしての認定を受けることで、航空機が駐機するランプエリアへの設置が可能となった。
トレーラーハウスは全長4,560mm、幅1,960mm、高さ2,390mmで、ハウス自体に自走する能力はなく、トーイングトラクターによって牽引するものとなる。導電性のある金属を外装に用いることで落雷の際には電気がボディの外側を流れる「ファラデーケージ効果」によって、ハウス内に退避しているスタッフを守る仕組みだ。
空港エリアには高い構造物も多いが、濡れた路面を走る電気などは多く、先述のCondition 2の発令前であっても、軽微なものを含めてランプエリアの作業員が落雷に遭うことも珍しくないという。ランプエリアにこうしたトレーラーを設置することで、Condition 2が発令された際に、いち早く安全な場所へ退避することができるようになる。
通常は8名、緊急時には最大10名が収容できる広さを持ち、内装は防水仕上げとなっており、床面には滑りにくいアルミ素材が使用され、水が抜けるよう排水口が2つ設けられている。雨天時に作業員が濡れた雨合羽のまま入室しても問題ない構造だ。
車内には広めの座席のほか、作業に使用しているiPad充電用のコンセント、エアコン、保冷温庫、火災報知器を備える。こうした設備の電源にはリチウムイオンバッテリーが搭載され、エアコンの設定温度24℃で約16時間稼働する。屋根にはソーラーパネルが設置され、発電も可能となっている。
今回、まずは1台を導入して実運用することで、スタッフからの意見を聴取する方針だ。ちなみに、2台目以降については電源の仕様を変更する予定で検討が進められている。現在はEV用の充電器を利用してバッテリーを充電しているが、充電器は羽田空港内でも場所が限られる。そこで、家庭用電源で充電が可能なポータブルバッテリーを電源とすることが検討されているのだ。また、羽田空港以外においても、成田空港、伊丹空港、福岡空港への導入に向けて、導入計画を進めていく方針だ。
地上だけでなく、上空においても雷対策が行なわれている。航空機への落雷は安全に影響を与えるだけでなく、機材交換による欠航や遅延を引き起こす。近年は機体の軽量化のために炭素繊維素材(CFRP)が用いられており、被雷時の機材ダメージが大きくなる傾向にある。それに伴い、修復に要する時間や修理作業費が増加し、1年間で数億円規模の損失が生じている。
この課題に対応するため、JALは被雷回避判断支援サービス「Lilac(ライラック)」を導入した。Lilacは誘発雷への対応に重点を置いているのが特徴だ。誘発雷とは、自発的な発雷ではなく、発雷ポテンシャルの高いエリアに航空機が入ることで引き起こされる雷である。飛行機の気象レーダーでは、発雷ポテンシャルの高い雲であっても弱い雪雲や雨雲は検知できないため、コクピットでは予期できない落雷リスクが存在する。
Lilacは、地上においてこの発雷ポテンシャルが高いエリアを予測し、パイロットに対して文字と絵を組み合わせたASCII ART(アスキーアート)で視覚的に伝達する。これにより、危険なエリアを事前に把握し、被雷を回避することが可能となる。
実際に8月12日の羽田発シドニー行き(JL51便)における出発時には、出発前の時点において、離陸経路の南方に積乱雲が存在することは把握できていたが、操縦室の気象レーダーだけでは誘発雷の可能性までは分からなかったという。この時、Lilacのアスキーアートによる情報が操縦室に共有され、羽田空港の南20マイルに被雷するポテンシャルが高い活発な雲があることが判明した。これを受け、パイロットはわずかな隙間も含めて雲から逃げる方針を立てて出発を決定した。規定の飛行経路にとらわれず、離陸したらすぐに右へ旋回し、とにかく雲にかすらない形で離れるオペレーションを実施した。結果として、被雷せずに離陸・出発することができたという。
仮に被雷していれば、引き返し(エアターンバック)や到着地での大きな遅延を生む可能性があり、そうなれば乗客は代替機の到着を待つ、あるいは欠航で目的地に向かえないような事態になり得たが、Lilacの予測に基づいて離陸後すぐの回避行動をとったことで、そのリスクを未然に防いだことになる。
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