特集/本誌より
「成長する日本市場に最適なビジネスジェットを用意」。ダッソーAPAC民間機プレジデントにインタビュー
中・大型ビジネスジェット、Falconシリーズを展開するダッソー・アビアシオン。2023年にはFalcon 6Xが商業運航を開始、さらに2027年にはFalcon 10Xのデビューも控えるなど、最新鋭のビジネスジェットを続々と市場投入している。パンデミックを経て、日本のビジネスジェット市場がかつてない賑わいを見せる昨今。マーケットの展望や、Falconシリーズの特徴について、同社のアジア太平洋地区民間機プレジデントを務めるジャコブ氏にお話を伺った。

ダッソー・アビアシオン アジア太平洋地区 民間機プレジデント
ジョン=ミシェル・ジャコブ氏
1987年にダッソー・アビアシオンに入社後、一貫して営業を担当。西ヨーロッパやブラジルにおけるFalconシリーズのセールスを担ったのち、2005年に国際セールス担当バイス・プレジデントに。その後、2007年にはマレーシアのクアラルンプールにおけるアジア地区のセールス拠点の開設、2012には中国・北京の拠点の再建などを担当したのち、現在はクアラルンプールを拠点にアジア太平洋地区におけるFalconシリーズのプロモーションを監督する。
目次
日本のビジネスジェット市場は「パンデミック中から大きく成長」
「以前は少数の人しか興味がなく、盛り上がりに欠けていましたが、パンデミック中から大きな成長を見せています」。はじめに日本のビジネスジェット市場について伺ったところ、ダッソー・アビアシオンのアジア太平洋地区民間機プレジデントであるジョン=ミシェル・ジャコブ氏は、開口一番にこう期待を寄せた。
パンデミック下ではエアライン各社の減便により利便性が低下するなか、「自分のソリューションを用意することの便利さ、快適さに多くの人が気づいた」といい、同氏によれば日本のビジネスジェット需要は2021〜2022年に大幅に増加した。2023年こそ横ばいだったが、「これは一時的なもので、日本と欧米諸国の繋がりはとても密接で、年々より強固なものとなっています」と、今後は再び成長へと転じると考える。

4機種をラインアップするFalconシリーズ。まもなく最新・最大のFalcon 10Xもロールアウト
ダッソー・アビアシオンでは現在、4機種のビジネスジェットをラインナップ。中型ビジネスジェットのクラスでは双発機のFalcon 2000LXSおよび3発機のFalcon 900LX、そして大型ビジネスジェットのクラスでは3発のFalcon 8Xおよび双発のFalcon 6Xがある。さらに現在、客室容積79㎥を誇り、ビジネスジェット専用機としては世界最大の機体となるFalcon 10Xを開発中だ。

Falconシリーズの特徴として、他社より優れた安全性、燃費性能、空力性を挙げたジャコブ氏。その根源にあるのは、ラファールをはじめとする戦闘機開発を通じて培った技術だという。例えば操縦の面において、他社がサプライヤーに頼るフライ・バイ・ワイヤ・システムを、ダッソーでは戦闘機向けに自社開発。「デジタル・フライト・コントロール・システム(DFCS)」と呼ばれるこのシステムはFalconシリーズにも搭載され、離陸〜巡航〜着陸における全てのフェースで機体を最適な状態に保ち、パイロットの負担軽減につながるほか、悪天候などでも安定した飛行を可能にする。
さらに、Falconシリーズはビジネスジェットでは初めて複合材料の主翼を採用するなど、戦闘機の空力技術も活かしていて「堅牢性が非常に高く、機体も軽い」のが特徴。前述のDFCSが常に空力的に最適な状態を保ってくれることも相まって、「同カテゴリーの他社のビジネスジェットよりも20〜30%燃費が良い」という。

開発中のFalcon 10Xにもこうした先進的な技術が詰め込まれるとともに、完全新設計の主翼などを搭載。同型機は2025年内のロールアウト、2027年後半の商業運航開始を予定している。開発にあたり、航空業界にも影を落とす近年のサプライチェーンの問題については「現在は解決に向かっている」とし、大きな影響はないとの見方を示した。また「ファルコンは過去80年の間に多数の機体を作ってきた経験から、航空機の開発に必要なプロセスは熟知している」と話すなど、2016年商業運航開始のFalcon 8X、同2023年のFalcon 6X、そして同2027年を予定するFalcon 10Xと、高いペースで新型機を世に送り出すメーカーらしい自信を見せる。

またFalcon 8Xなどは近年では珍しい3発機となっている。双発機と比べてエンジンが1基増えることでコストが増えるのかと思えば、そうではない。3発のFalconシリーズは同じサイズの双発機と比べて燃費が優れているといい、例えばFalcon 8Xでは同カテゴリー機と比べて「年間で20万ドル程度」運航コストが低いという。さらにETOPS(片エンジン停止時に備え、代替着陸できる空港から常に一定の範囲内を飛行しなくてはならないルール)によるルート制限を受けることなく、直線的なルートが飛行可能であるほか、短い滑走路でも離着陸ができるという、3発機ならではのメリットもある。

Falconシリーズ各機の位置付け、そしてサポート体制
「30年前の日本においては、(当時はアジア担当ではなかったものの)同僚から“羽田空港や成田空港にビジネスジェットを就航させるのは難しい”と聞いていました。しかし今は簡単に運航できるようになり、顧客もビジネスジェットという選択肢への抵抗がなくなっています」とジャコブ氏が語るように、あらゆる面でビジネスジェットへの敷居が低くなった今の日本。まもなくFalcon 10Xラインナップに加わるなか、Falconシリーズの各機種は日本市場にどうフィットするのか。
「日本には大きく分けて2つのマーケットがあると考えます。国内やアジア内を移動する短・中距離需要と、欧米諸国へと向かう長距離需要です」。前者にはFalcon 2000LXSが、後者にはFalcon 8XやFalcon 10Xなどが最適だとする。実際Falcon 2000LXSについては、フジビジネスジェットが日本国籍機(JAナンバーの登録機)として初めてFalconシリーズを導入し、2022年から国内で商業運行を実施している。

Photo: Yuta Warrens/AIRLINE
また顧客へのサポート体制については、前述のフジビジネスジェットの拠点がある静岡空港でFalcon 2000LXSの日常的な整備が可能なほか、マレーシアのクアラルンプールにはダッソー・アビエーション傘下の企業展開し、「多額の投資を行なっている」整備施設があり、重整備も欧米に飛ぶことなくアジア内で完結できる。さらに中国や東南アジア、オーストラリアなどにスタッフがいて、日本の顧客をサポートできる体制も整えている。
最後に「長らく動きが限られた日本のビジネスジェット市場ですが、この先は成長が期待できます」と日本市場への強い関心を改めて示したジャコブ氏。「その成長する市場に、我々は最適な機体をご用意しています」と締め括った。

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