連載
混雑空港でのトーイングに特化した、トーバーレス・トーイングトラクターとは~ 連載【月刊エアライン副読本】

【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
昔むかし、格納庫の前で整備士さんたちが困っていました。整備が終わった飛行機を、スポットまで移動する管制の許可がなかなか降りないのです。トーイング時の最高速度は10km/hに制限されているので、混雑しているときには交通の流れに乗れないというのも理由でしょう。しかし、このままでは定刻に出発させることができません。そこにやってきたパイロットが、「ならば私がスポットまでタキシングしてあげましょう」と飛行機に乗り込み、エンジンをかけて出発スポットまで移動させました。トーイングではないので、制限速度もなければ管制からの許可もスムースです。スポットでは用意されていた多くの貨物を積みこみ、定刻で出発することができました。めでたしめでしたし。
少し脚色しているが、これは過去にあった実話であり、そのパイロットから直接聞いた話である。現在ではそんなこともないだろうが、トーイング時の制限速度が10km/hというのは変わっておらず、混雑時には移動のタイミングがむずかしい。それを改善するのが、トーバーレス・トーイングトラクター(以下、トーバーレス車と記述)だ。
従来からのトーイングトラクターが、トーバーと呼ばれる連結棒を介して航空機を牽引するのに対して、トーバーレス車は前輪をくわえこむようにして航空機を移動させる。制限速度は30km/hまで引き上げられたから、他の航空機の流れに乗ることもできる。
またトーバーを介して牽引する場合には、コクピットにブレーキマンと呼ばれるグランドスタッフか整備士を乗せる必要があった。トーイング時に必要となるブレーキ操作などを行うためである。しかし、トーバーレス車ではブレーキマンを乗せずにトーイングすることも可能だ。
各社の整備格納庫が並び、スポット移動が多い羽田空港や成田空港にはトーバーレス車が増えている。ただし日本ではスポット移動などのトーイング時のみに使われることが多く、出発時のプッシュバックで使われることは少ない。
もちろんトーバーレス車でのプッシュバックも可能であり、海外の空港では珍しくない。乗客として乗っているときには前輪からの離脱時に少し揺れを感じるので、トーバーレス車であることがわかるだろう。
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