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エンジンの進化を象徴する指標「バイパス比」 ~ 連載【月刊エアライン副読本】

文:阿施光南 写真:阿施光南
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【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。

 旅客機の経済性を高める鍵はエンジンであり、その進化を象徴するひとつの指標がバイパス比だ。これはターボファンが吸い込んだ空気のうち、燃焼室に送って燃やす空気と、エンジンの周囲を素通り(バイパス)させる空気の比を示す。数字が大きいほどバイパスさせる空気の割合が多いということで、だいたい燃費もよくなる。

イメージ(CFM56)
イメージ(CFM56)

 初期のジェット旅客機である707やDC-8が最初に装備したのは、吸い込んだ空気をすべて燃焼室に送るターボジェットのJT3CやJT4Aだった。

707と共通のルーツを持つ米空軍のKC-135空中給油機。
707と共通のルーツを持つ米空軍のKC-135空中給油機。エンジンはターボジェトのJ57で、その民間型であるJT3Cは初期の707に装備された。
707の胴体を縮めて軽量化し、さらに主翼を改良することで短い滑走路からでも運航できるようにした720。
707の胴体を縮めて軽量化し、さらに主翼を改良することで短い滑走路からでも運航できるようにした720。この時代の707と同様にJT3Cを装備した。

 しかしJT3Cの前方にファンを追加してターボファン化したJT3Dが開発されると、その効率の高さからこちらが標準装備されるようになった。JT3Dのバイパス比は1.42にすぎなかったが、吸い込む空気の量が増えたため推力も約1.4倍に増加した。

JT3Cの前方にファンを追加してターボファン化したJT3D。
JT3Cの前方にファンを追加してターボファン化したJT3D。前方のやや太くなっている部分がファンカウルで、その後方のスリットがバイパスエアの出口。

 ワイドボディ旅客機の747用に開発されたJT9Dではバイパス比が一気に約5に拡大し、高バイパス比ターボファンという言葉も生まれた。ちなみにJT9Dのファン直径は約2.4mもあり、初期にはここにCAを立たせて巨大さをアピールする写真がよく使われた。そのため「高バイパス比ターボファンは大きい」というイメージが定着したが、もちろん小型エンジンでも高バイパス比にすることは可能だ。

747用のオリジナルエンジンとして開発されたJT9Dは、当時としては画期的なバイパス比5を達成。
747用のオリジナルエンジンとして開発されたJT9Dは、当時としては画期的なバイパス比5を達成。開発は難行したが、ワイドボディ旅客機の時代を拓いた。

 たとえばA320ceoで使われているV2500の外観やサイズは低バイパス比ターボファンのJT3Dとよく似ているが、バイパス比は約3倍の4.5(ほぼJT9Dに匹敵)だから高バイパス比ターボファンといってもいいだろう。

DC-8-61が装備したJT3D。
DC-8-61が装備したJT3D。基本的には707が装備したのと同じエンジンだが、バイパスエアを通すファンカウルが707用よりも長いのが特徴だ。

 V2500はJT3Dと比べて燃費がよくなっているだけでなく、推力も約1.4倍になっている。さらに小型のE170に装備されたCF34もバイパス比は5.3だから、やはり高バイパス比ターボファンといえるだろう。

A320やA321に装備されているV2500。
A320やA321に装備されているV2500。サイズ感としてはJT3Dとあまり変わらないが、バイパス比は約3倍の4.5、推力は約1.4倍になっている。

 現代の実用エンジンで最大のバイパス比を誇るのはA320neo用のPW1100Gだ。バイパス比は12.5で、正面からは直径2.06mのファンを通してコンプレッサーの翼列が見える。ここを通った空気だけが燃焼室に送られるわけだ。

正面から見たPW1100G。
正面から見たPW1100G。バイパス比は12.5で、ファンを通して向こう側の景色が見える。中心近くに見える小さなブレード列がコンプレッサーの入口。

 ちなみにA320ceoが装備したV2500と比べるとエンジンの太さがまるで違うが、だからといって推力が大きくなったわけではない。なにしろA320neoとA320ceoはエンジン以外はほぼ同じ機体といえるから、さらに大きな推力は必要ない。ただ同程度の推力を発生するにも、少ない燃料消費で済むようにしたのがPW1100Gだということだ。

V2500を装備したA320ceoとPW1100Gを装備したA320neo。
V2500を装備したA320ceoとPW1100Gを装備したA320neo。エンジンの太さの違いと、それでも推力がほぼ同じということに驚く。大きく違うのは燃費だ。

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