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チャイナ エアラインとエバー航空を乗り比べる台湾旅 台北→関西編 〜 連載【パイロットが乗客に! マニアック搭乗記】

現役の機長が1人の乗客として海外エアラインのフライトに搭乗し、パイロットならではの専門的な視点でその模様を紹介する本連載。今回は中部→台北→関西を同日中に乗り継ぎ、台湾の2大航空会社、チャイナ エアラインとエバー航空を乗り比べる。往路ではチャイナ エアラインのエアバスA330に搭乗したが、復路の搭乗機はエバー航空のボーイング787だ。機体の違いなどを中心にレポートしよう。

文:Hide(ボーイング737機長) 写真:Hide
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Photo: Yuta Warrens/AIRLINE

今度は最新鋭機、ボーイング787-10で帰国

 中部国際空港から台湾の桃園国際空港へ、チャイナ エアラインで到着してからわずか数時間。すぐに関西国際空港へ向けてエバー航空で帰国します。チャイナ エアラインは外国の会社らしいフレンドリーな雰囲気の中にも何かフラッグキャリアとしての格式が感じられたのに対して、エバー航空はとてもフレンドリーかつエネルギッシュなイメージを受けます。最近ではスターラックス航空も加わり、台湾という国に3つの個性が輝く時代となりました。実はこの3社には日本人パイロットが比較的多く在籍しており、人気の転職先にもなっています。

 前回のチャイナ エアラインは古参のエアバスA330でしたが、今回搭乗する機種はボーイングの最新鋭機787。その中で最も長い胴体を持つモデルである787-10です。777-200を凌ぐキャパシティを誇る同機は、高燃費と快適性を両立させた中・長距離国際線の主力機です。スラっとした胴体と長く伸びる翼が良いバランスで、最新鋭機の雰囲気に満ちています。

この日搭乗したエバー航空の787-10、登録記号B-17801。

 搭乗橋から一歩機内に足を踏み入れると、787の特徴であるカーブを描いた高い天井とLED照明が快適なフライトを予感させます。今回はL2ドアから比較的近い前方23列目。座席に着席して周りを見渡すと、最新鋭機ではあるものの機齢は多少感じます。それもそのはず、この機体はエバー航空の787-10初号機(登録記号B-17801)で、就航から5年が経過しているとのこと。まだまだ新しい部類ではありますが、日本の会社が最近国内線に導入したばかりということもあって、787-10には就航間もないというイメージがありました。

搭乗機の向こうに視線を向けると、エスワティニ王国(旧スワジランド王国)の政府専用機が駐まっていました。桃園国際空港はエバー航空と同じ系列のEGATなど、MRO企業の拠点もあるため、整備での飛来だったのでしょうか。

 さて今回のフライトは満席近いということもあって、私の座席は両側のお客様に挟まれる“間席”です。787エコノミークラスの横3-3-3の座席配列は、特に満席近い予約率の場合、1人旅だと間席になる確率が高いのであまり好まないのですが、世界の長距離旅客機はほぼ3-3-3ないし3-4-3配列となってしまっているので仕方ないことです。とはいえ、座席幅が比較的狭い787では特に間席の辛さが増します。救いなのは台湾から日本という短距離国際線であることでしょうか。

 この間席、左右のお客さんが容赦なくヒジを突き出してアームレストを占領するとなかなか悲惨なものです。さらに食事中にもかかわらず前の座席を倒したままにされると、自分が利用できるスペースは悲劇的な狭さとなります。お互い配慮しながら過ごすことで狭いエコノミークラスでも快適に旅行を楽しむことができるので、少し周りを見渡して相手へ気遣う心と、譲る気持ちをお互い持ちたいものです。

桃園国際空港の全体図です。2本の滑走路はそれぞれ離陸、着陸用に分かれており、夜間は片方を閉鎖してメンテナンスを実施します。滑走路からターミナルまでの誘導路
もよく整備されていて、パイロットとしてもとても運航しやすい空港の1つです。現在は第3ターミナルが建設中で、さらなる利便性向上が期待されます。Image:Civil Aviation Administration, Republic of China

静かな2基のGEエンジンで、あっという間に巡航高度へ

 フライトそのものは、前方席かつ最新鋭機とあって、離陸推力がセットされても非常に静かでした。先ほど乗ってきた中部発のフライトと同じく上昇中は揺れが続き、シートベルト着用サインが点灯したまま早々に巡航高度3万9000フィートに到達しました。また、重量に比較的余裕がある路線とはいえ、国際線でも早い段階から高い巡航高度を選択できるのは787の特徴です。

 揺れがある中ではありますが、機内ではすでにミールサービスがスタート。キャビンクルーは非常に手際良く、お互いコミュニケーションを取りながら迅速に配膳していきます。その制服はエバー航空のグリーンをうまく取り入れた華やかなスタイルで、客室の内装ともよくマッチしています。

丸みを帯びたOHSは新しいボーイング機の特徴で、とてもクリーンで洗練された印象です。ピボット式のOHSは容量が大きい一方、ドアハンドルが高い位置にあるので座席横の足掛けを利用して開閉する方も多いです。ちなみにこの「押しても引いてもロック解除できるドアハンドル」は787から採用されています。

 787の機内を歩くことはできませんでしたが、白くて大きいOHSと高い天井、中央席からでも左右を見ると外の景色が見えるほど大きな客室窓が、開放感を演出しています。液晶による電子カーテンも調光が可能なので、窓側のお客様が眩しくてもサングラス越しに外の景色を見るような体験ができるのが良いですね。

 また、なぜか787に乗るとアナウンスの声も少し聞こえやすいように感じます。低音が少し強調されているような感覚で、静かな機内に加えてスピーカー自体も以前より進化しているのかもしれませんね。

今回はミールチョイスがなかったのですが、とても美味しい食事でした。短距離路線では十分過ぎるほどの量と質です。

午前の往路と比べて揺れが落ち着いたフライト後半

 那覇が近づくと往路同様にやはり揺れが生じますが、787は揺れがマイルドというか、周期の長い揺れとなっていてむしろ心地良くさえも感じます。皆さんも787が離陸していくときの翼の“反り”をご覧になったことがあるかもしれませんが、あの翼の柔軟性がこの乗り心地を作り出しているのです。

 ここで座席のエンターテインメントを見てみましょう。頭上の読書灯やキャビンクルーのコール、画面の明るさ調整まで、すべてタッチパネルで行なう必要があるのです。ハードキーと比べると、従来よりもひと手間増えるだけなのですが、手探りで調整することは不可能なので逆に古い飛行機が便利だったと気がつく部分でもあります。これは昔の携帯電話からスマートフォンに進化したこととよく似ています。しかしながら、液晶画面への操作系統集中は故障の低減や、重量とコスト削減にもつながるということで、素直に受け入れることにしましょう。

座席のエンターテインメントは大画面で操作性も申し分ありません。最近はこのタイプが増えているように思いますが、唯一残念なところはハードキーがなくなってしまったことです。

 ちなみに会社によってはハードキー付きの小さなリモコンを別に装備している場合もありますが、それを見つけたときには「よくぞつけてくれた!」と思うものです。航空会社によるコストとサービスのバランスを、こんな小さなところでも発見できるのが面白いですね。

 その後は、午前の往路のときと比べて上空の風の変化が落ち着いてきたのか、大きな揺れはなく、順調に高度を下げ関西国際空港に着陸しました。ちなみに787-10にはセミレバードギアといって、離陸性能を良くする装備があります。メインギアの前輪にダンパーがついていて、離陸の際には滑走路をまさに蹴り上げるような動きをして離陸性能を向上させるのです。着陸の際にも後輪からやさしく接地することを助けてくれる、隠れた功労者です。

同じ787シリーズでも、787-10だけに装備されるセミレバードギア。写真の通り、メインギアのストラット(脚)から斜め前に向けて伸びている支柱が、そのアクチュエーター(ダンパー)です。Photos: Yuta Warrens/AIRLINE

航空会社もサービスは提供したいが、何よりも安全が優先

 今回は窓側席ではなかったのでフライトの様子はほとんどわかりませんでしたが、同日フライトしたチャイナ エアラインのA330とほぼ同じ空域を飛行してきたことで、両機種の揺れの違いや機内の違いがより鮮明になりました。また両社のサービスの違いも体感できました。高い需要を誇り、複数の航空会社がフラッグシップを投入する短距離国際線というのはなかなかないもので、台北線はまさに乗り比べに最適な路線ではないかと思います。

 新旧中型機の乗り比べを、異なったエアラインで行なうという貴重な機会。いずれの便も国際線としては大変短い飛行時間かつ、さらにエンルートは揺れが入るという状況の中、ミールサービスを手際よく行なう客室乗務員の素晴らしい仕事を拝見することができました。我々パイロットは、特に旅客便ではできるだけ揺れる時間を少なくしたいと思っています。サービスを十分に満喫していただきたいですし、お手洗いにも我慢を強いることなく行なっていただきたい、との思いで運航しています。

往路からわずか数時間ですが、活発な雨雲の中心は東へと遠ざかり、航路上の天候は良くなっているといえます。低気圧の中心が東進した影響だと思われます。Image: Ventusky.com

 ただし、今回はまだマシでしたが、これ以上に揺れが続き、どうしても長時間にわたりシートベルト着用サインを消灯できない場合もあります。今回、私も旅客として客室に座って状況を想像していましたが、きっとパイロットは心苦しい思いでいっぱいだっただろうと思います。

 他社と差別化を図るため、機内サービスは特に航空会社が力を入れるところでもありますが、それを十分に行なえないほどの天候の下で運航しなければならない機会があることも事実です。ご搭乗の皆様にはご心配をおかけすることもあるかもしれませんが、サービスが行なえないほどの揺れでも安全性に影響はありません。最終的に安全に飛行機を目的地に到着させることがパイロットの仕事ですので、どうか悪天候でも安心して飛行機の旅を楽しんでいただければ幸いです。

復路の飛行ルート。行きと同じルートをほぼ辿る形でしたが、往路は揺れた四国付近も含め、フライト終盤は比較的スムーズでした。Courtesy of Flightradar24.com
現役の機長が1人の乗客として海外エアラインのフライトに搭乗し、パイロットならではの専門的な視点でその模様を紹介する本連載。今回は中部→台北→関西を同日中に乗り継ぎ、台湾の2大航空会社、チャイナ エアラインとエバー航空を乗り比べる。往路ではチャイナ エアラインのエアバスA330に搭乗したが、復路の搭乗機はエバー航空のボーイング787だ。機体の違いなどを中心にレポートしよう。

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