連載

雷雲を避けながら飛んだ、キャセイパシフィックの香港=バンコク線〜 連載【パイロットが乗客に! マニアック搭乗記】

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離陸後も、雲や他機を避けながら飛行

 離陸待ちもあってかなり遅延しての07Rからの離陸は、さすがの騒音です。特に客室後方ですから、テイクオフ・パワー(離陸推力)が入ると内装がビリビリと震えるぐらいのサウンドを奏でます。離陸後は比較的マシになってくるのですが、それにしても久しぶりに聞く(体感する)迫力ある離陸音でした。

低く雲が立ち込める香港からの離陸直後。雨が降った後は空気が綺麗になって、このように雲の隙間からクリアに地表が見えます。

 管制指示により低高度で何度も高度を抑えられながら、巡航高度まで上昇していきます。混雑空港周辺はこういった運用が多く、雷雲の回避とともに他機への配慮(TCAS=衝突防止警報を鳴らさない)も欠かせないフェーズで、パイロットのワークロードが特に高くなる時間なんです。

 2万フィートを超えるころ、マイナスGを伴う強い揺れが断続的に入ります。恐らく周辺に散在する雷雲の影響でしょう、真横に雷も見えます。こんな中、777の翼がしなって積極的に揺れを吸収してくれている様子がわかりました。内側のエルロンも小刻みに動かし、何とか激しい雷雲の空域を回避して上昇していきます。しかしやはり古い飛行機ということもあって、エンジンパワーが最新機と比べると劣るのでしょうか、上昇率はあまり良くありません。こういうときはパイロットとしても早く雲の上に出たいと、オートパイロットのモードを駆使して頑張るものなんです。

香港から100海里(約185km)ほど南に出たところで、やっと積乱雲(CB)の空域から脱することができました。

 これは個人的な感想ですが、ボーイング機のほうが揺れはマイルドというか、フワフワした感覚が強いです。エアバス機はどちらかというとダイレクトに揺れが感じられ、私は個人的にボーイング機のほうが好きです。

巡航高度に達した後はスムーズなフライト

 3万4,000フィートで巡航に入り、スムーズになった機内では、早速サービスの準備が始まります。国際線としては比較的短時間のフライトですので、「手際良く食事を配膳しないと」という緊張感が伝わってきます。

機内食はチキンをチョイスしました。

 ちなみにこの日はかなりルートの南側を飛行してあるなぁと思ったら、海南付近にある塔状積雲(TCU)崩れを回避していたようです。その後もルート北側には巡航高度より高く成長したTCUが散在していて、随時避けながらのフライトとなったようです。

これだけ大きなTCUは非常に大きなエネルギーを持っているため、パイロットは必ず回避します。
通常の飛行ルート(写真左)と、今日のルート(右)を並べてみました。かなり南回りにフライトしていますよね。Courtesy of Flightradar24.com

高度と針路を調整しながら降下、いよいよスワンナプームへ着陸!

 777-300はその後も順調にフライトを続け、ベトナム、ラオスの上空を抜けてタイ空域へと入ります。ちょうど目的地まで120海里(約220km)となったころ、機体は降下を開始しました。降下中は減速を命じられたのか、あるいは降下率の調整か、結構長い時間スピードブレーキを使う場面がありました。スピードブレーキを使うと機体に振動を感じますので、皆さんもすぐ分かるはずです。

夕暮れのバンコクへのアプローチ。遠くに見える積乱雲もこの時ばかりは綺麗に見えます。

 スワンナプーム国際空港も混雑しているのか、また管制からヘディング(針路)を振られている(指示されている)ようです。遅延しているときは、回復しようにもどんどん新たな要因が重なってきてさらに遅れるというのが、我々パイロットの中でよく言われることです。飛行機の旅はどうしても電車のように正確にはいきませんので、乗り継ぎやフライト後の予定までの時間は充分確保していただきたく思います。

スワンナプーム国際空港付近での管制によるベクター(誘導)の様子。一直線に滑走路に正対せず、Uターンを繰り返す飛行をしたことがわかります。Courtesy of Flightradar24.com
着陸態勢に入った飛行機は、1,500フィート以下で若干のラフエア(乱気流)と戦いながら、夜の帳が下りたバンコク・スワンナプーム国際空港RWY19Rに着陸しました。

愛嬌が感じられる機種、777-300

 777-300は確かに古い飛行機ですが、まだまだ現役でフライトできると思わせる安定性と快適性を見せてくれました。最新鋭機と比べても遜色のない乗り心地は、完成された飛行機という印象を改めて受けます。また降りたあとに機体を正面から見ると、最新の機種よりも丸くて愛嬌が感じられ、非常に愛着が持てる機種だなぁと思いました。

 キャセイパシフィック航空の現役機最大のキャパシティと機動力で、まだしばらくの間、活躍が期待される777-300でした。

現役の機長が1人の乗客として海外エアラインのフライトに搭乗し、パイロットならではの専門的な視点でその模様を紹介する本連載。第2回もキャセイパシフィック航空のフライトだ。前回の連載でたどり着いた香港から乗り継いでバンコクへと向かうが、香港国際空港周辺は雷雲が立ち込めていた。