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管制圏と情報圏って何が違う? 空の安全を守る空域の話(1)~ 連載【月刊エアライン副読本】

文:阿施光南 写真:阿施光南
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【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。

管制圏は半径9km、高度3000ftまでの空域となる。
管制圏は半径9km、高度3000ftまでの空域となる。大阪(伊丹)空港へのアプローチを例にとれば、淀川を渡る直前がその境界となる。地上の感覚だとかなりの広さがある。

 空には、管制圏や情報圏、管制区や情報区、TCAやPCAなど、さまざまな名前の空域があって、ややこしい。こうした空域の多くは、航空管制のために設けられている。

 航空管制の主たる目的は安全で円滑な航空交通、簡単にいえば航空機同士の衝突を防ぐことだ。とりわけ衝突の危険が大きいのは、飛行場(空港)の周辺だろう。あちこちから航空機が飛んできて、あちこちに向けて飛び立っていく。そんな航空機が増えれば、交通整理も必要になる。そこで見晴らしのよい管制塔が作られ、半径9km(5NM)、高度は原則3,000ftの範囲が交通整理のために必要な空域として確保された。これが管制圏で、英語(つまり航空界の世界共通語)では「Control Zone」という。管制圏に入るには管制官の許可が必要で、中では管制官の指示に従って飛ばなくてはならない。もちろん離着陸にも管制官の許可が必要だ。

小型機専用としては珍しく管制圏を持つ八尾空港。
小型機専用としては珍しく管制圏を持つ八尾空港。ただし上空は大阪空港への進入コースになっているため、上限高度は通常の3,000ftではなく2,000ft(一部1,300ft)に抑えられている。

 ただし管制圏が設定されるのは管制官がいる飛行場だけだ。世の中には管制官が配置されていない飛行場も多く、かわりに運情官(航空管制運航情報官)が航空機に対して飛行場や周辺航空機の情報などを提供している。運情官は飛行場にいる場合もあるし、離れた場所にあるFSC(Flight Service Center)から遠隔業務を行なっている場合もある。

 いずれにせよこうした飛行場には情報圏(Air Traffic Information Zone)が設定されている。その範囲は管制圏と同じく半径9kmだが、運情官はパイロットに対して許可や命令を出すことはできないので、あくまで情報の提供にとどまるというのが違いだ。そうした情報を参考に、パイロットは自らの責任で安全を判断して飛ぶのである。

静岡空港には管制塔があるが、ここには管制官ではなく運情官が配置されている。
静岡空港には管制塔があるが、ここには管制官ではなく運情官が配置されている。周囲には情報圏が設定されているが、東側は静浜基地と接しており完全な円形にはなっていない。

 さらに交通量が少ない飛行場では、管制圏も情報圏も設定されていないことが多い。たとえば第一航空が就航している沖縄の粟国空港や波照間空港、小型機専用のホンダエアポート(桶川飛行場)や茨城の竜ヶ崎飛行場などにも情報圏はない。小型機専用でも大阪の八尾空港のように管制圏があり、旅客機が就航していない福井空港にも情報圏があるといった例外はあるので一概にはいえないが、一般的には旅客機が就航している飛行場や自衛隊の航空基地以外には管制圏や情報圏はないと考えていいだろう。

 ただし情報圏がない場合でも、その飛行場管理者が情報を提供してくれるのが普通だ。たとえばホンダエアポートには桶川アドバイザリー、竜ヶ崎飛行場には竜ヶ崎フライトサービスの周波数が設定されており、航空機に対する情報提供を行なっている。ホンダエアポートではスカイダイビングが行なわれることも多いので、離着陸しない飛行機でも周辺を飛ぶときには連絡を取って、情報を共有する方が安心だ。

運情官が常駐していない飛行場の情報圏を飛ぶ航空機に対しては、離れた場所からリモートでの監視と情報提供が行なわれる。
運情官が常駐していない飛行場の情報圏を飛ぶ航空機に対しては、離れた場所からリモートでの監視と情報提供が行なわれる。これは与那国空港を担当する那覇の運情官。
情報圏もない飛行場には、管理者が情報提供を行なうフライトサービスがある。
情報圏もない飛行場には、管理者が情報提供を行なうフライトサービスがある。これは埼玉のホンダエアポート。河川敷にあるため増水時に移動可能な管制室となっている。

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