連載
エンジンは飛ばすためのものではない ~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
エンジンは前進するためのもの
いくつかの例外はあるが、飛行機のエンジンは「飛ばす」ためではなく「前に進む」ためについている。当たりまえのことではあるが、すごいことではないか。前に進めるだけならば、自動車のエンジンと同じだ。それでも飛行機は、飛んでしまうのだ。
前に進める力は「推力」という。前に進むと空気抵抗が発生するが、これを「抗力」という。スピードが速くなるほど抗力も大きくなるから、高速で進むためには大きな推力が必要になる。そして推力と抗力が同じ(釣り合っている)ときには、飛行機は加速も減速もしない。また飛行機を飛ばす力は「揚力」という。揚力が飛行機の重さ、つまり「重力」よりも大きくなったならば飛行機は離陸して上昇できる。揚力と重力が釣り合っているときには高度は一定になる。
揚力を発生するのは翼だ。とはいえ翼には複雑な「揚力発生装置」のようなメカニズムがあるわけではない。ただ、前に進むと風の力を受ける。そのうち上向きの成分が揚力で、後ろ向きの成分が抗力だ。風を受けるだけで揚力を発生するのだから、とても簡単だ。ただし、いつも都合のよい風が吹いているわけではないから、自ら前進することで風を受けなくてはならない。エンジンは、そのためについている。
もちろん、翼の形は重要である。できるだけ小さな抗力で、大きな揚力を発生できる形にしたい。それを徹底的に追求した結果、効率のよい翼の揚力と抗力の割合(揚抗比)は100を超えるほどになった。これは抗力(=推力)の100倍以上の重さを支える揚力を発生できることを意味する。現実には胴体やエンジンの抵抗、翼端の影響(圧力の高い下面から上面に逃げる空気の流れて効率がわるくなる)などで揚抗比はずっと低くなり、ジェット旅客機では15から20程度になってしまうが、これでも十分にすごいだろう。
また旅客機には、離陸時の加速や上昇、あるいはエンジン故障時の備えて、さらに大きな推力のエンジンが装備される。それにしても、総重量575トンのA380を4発あわせた総推力150トン程度のエンジンで飛ばせてしまうのだから、翼はお得な装置である。
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