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ANA、GSE車両で次世代バイオ燃料「RD」の実証を開始。従来のバイオ燃料とは異なる利点

ANAが羽田空港で次世代バイオ燃料「RD(Renewable Diesel)」の実証実験をスタート。従来型バイオディーゼル燃料ではなく、RDを選択肢として検討することには理由がある。

文:本誌編集部 写真:本誌編集部
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ANAグループが次世代バイオ燃料「RD」の実証をスタート。ハイリフトローダーに供給して運用する様子を報道公開した。

 ANAは5月9日、羽田空港で使用している地上支援車両(GSE車両)に、次世代バイオ燃料「RD(Renewable Diesel)」を使用する実証実験をスタートした。

 RDは、軽油などのディーゼル燃料の代替燃料で、二酸化炭素(CO2)排出削減につながる“次世代”バイオ燃料として注目されている存在だ。ライフサイクルにおいてCO2排出量を70%から90%程度削減できるとされている。

 ANAでは、「主要排出量は当然航空機から排出されるものの方が多いが、 航空機の運航を支える地上の車両も含めた2050年のカーボンニュートラルを実現していくための選択肢として、 こちらの脱炭素における有効な代替燃料としてこのRDに期待をしている。中長期的には、RDや電動化、水素化などを含めたあらゆる選択肢を組み合わせてオペレーション全体の脱炭素に取り組んでいきたい」(ANA 経営戦略室 企画部 GXチーム マネジャー 乾元英氏)と話すとおり、脱炭素の“一つの選択肢”としての活用を目指す考え。

 例えば、電気自動車(EV)や燃料電池車両(FCV)といった選択肢もあるが、GSE車両ではその種類が少ないことに加え、空港制限エリア内における充電設備にも限りがあることから、充電に要する時間の確保も課題となる。バイオ燃料については、すべての車両をまかなうだけの量の調達などに課題があり、今回の実証の成果は、RDをほかのソリューションとどのように組み合わせていくかの検討材料にもなる。

 ANAグループでは全国で約14,000台、羽田空港で約2,800台のGSE車両を保有しているが、まずはハイリフトローダー×10台、航空機を牽引するトーイングカー×10台、パッセンジャーステップ×6台の3車種26台を対象に実証を行なう。「EVは小型で大きなトルク(力)を必要としない車両に向いている。大型の車両であるほどEVの選択肢が少なく、車両の入れ替えコストも高くなる。大きなトルクを必要とする車両に対してはRDが有効なのではないか」(乾氏)という考えで選定されたもの。一方で、理由は後述するが、実証対象の車両では軽油を使用できず、RDしか使えなくなる。小型車に比べれば機動性で劣る大型車両でRDをどのように活用するかを、給油を含めた体制のなかで検証することになる。

ANA 経営戦略室 企画部 GXチーム マネジャー 乾元英氏
ANA 経営戦略室 企画部 GXチーム マネジャー 乾元英氏
RDを給油したハイリフトローダーでの貨物積載。
このハイリフトローダーには、RD使用車であることを示すステッカーが貼られている。

 ちなみに、いわゆるBDF(Bio Diesel Fuel)と呼ばれる従来型のバイオディーゼル燃料は、廃食油や植物油脂などからディーゼル燃料に似た性質を持つ脂肪酸メチルエステル(FAME:Fatty Acid Methyl Esters)を生成したもの。対してRDは、同様に廃食油などを原料とするが、これに水素化処理を加えて炭化水素化したもので、水素化植物油を意味するHVO(Hydrotreated Vegetable Oil)と呼ばれる。BDF以上に成分が石油由来の軽油に近いほか、水素化処理で硫黄や芳香族、窒素、重金属などが除去されることから、ほぼ無臭で、煤(すす)もほとんど出ない。

 RDは軽油の3~4倍というコストがかかり、BDFと比べても割高であるというが、煤(すす)が出ないことや、BDFで課題となっているゴムへ浸透して膨張・軟化する可能性があることなど、継続的なメンテナンスコストはBDFより抑えられることが期待される。また、寒冷地や冬季に課題となる、低温時の粘度などの低温特性は、RDに優位性がある。これらを総合的に検討して、「RDの方が空港での利用にはよりマッチしているのではないか」(乾氏)とのことで、BDFではなくRDの実証に踏み切ったという。

 なお、軽油に特性が近いとはいえ、一部の法令において軽油ではなく「燃料炭化水素油」という取り扱いになるため、使用にあたってはいくつかの課題がある。大きな点は「軽油との混和ができない」ことだ。現在使用しているディーゼルエンジンを積んだGSE車両に、そのまま給油して使用できる「ドロップイン」燃料であることから既存施設を活かしやすいことがメリットだが、BDFは軽油の混和時にBDFは5%までという制約を守る必要はあるものの、(RDよりは)多少ゆるやかに切り替えることができる一方、「燃料炭化水素油」として扱われるRDを使用するには、給油側も使用するGSE車両側も一度すべての軽油を抜き取って「空」の状態であることを証明したうえでRDの使用へと切り替える必要がある。そのため、給油車の表示はもちろん、GSE側にも給油口の近くに「RD」を使用する車両であることを分かりやすく明示して運用している。

 また、ジェット燃料の代替燃料である「SAF」も廃食油などに由来し、RDと同じ製造工程で生み出される連産品となる。その点で生産量の拡大が見込まれる燃料とも言え、増産や利用の拡がりに伴うコスト減、幅広い業界での利用に伴う(先述の制限のような)法改正の動きが生まれることなどにも期待を寄せていた。

軽油の混和が厳禁のため、ハイリフトローダーの給油口脇に大きく「RD」のステッカーが貼られている。
給油車にもタンク内はリニューアブルディーゼル(RD)であることが明示されている。
左が軽油、右が今回の実証実験で使用するRD。ディーゼルはやや黄色みがかっているが、RDの方は無色透明に近い。
ANAが羽田空港で次世代バイオ燃料「RD(Renewable Diesel)」の実証実験をスタート。従来型バイオディーゼル燃料ではなく、RDを選択肢として検討することには理由がある。

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