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JAL、エンブラエル機で世界初の電動トーイングカー。作業や人材育成の効率化に期待
JALグループは伊丹空港において、リモコン操作式の電動トーイングカー「Mototok SPACER 8600 NG」を導入し、エンブラエル170/190に対しての運用を開始した。エンブラエル機での実用化は世界初である。操作性や安全性に優れるほか、免許なしでの操作が可能で、作業効率や人材育成の面でも大きな効果が期待されている。

目次
エンブラエル機では世界初 リモコン操作式の電動トーイングカー
JALグループは、伊丹空港を拠点とするJ-AIRが運用しているエンブラエル170/190に対して、出発便のプッシュバック作業においてリモコン操作式の電動トーイングカー「Mototok SPACER 8600 NG」の運用を開始した。エンブラエル機で運用する航空会社は同社が世界初となる。
Mototok SPACER 8600NGは、独Mototok International社が開発した完全電動駆動のリモートコントロールタイプのトーイングカーで、最新モデルの8600NGではボーイング737シリーズやAIRBUS A320ファミリーに加え、はじめてエンブラエルE-Jetsファミリーでの運用認証を取得した。トーバーレス方式を採用し、ノーズギアのホイールを抱きかかえる形で固定。運転席はなく、操作は専用の無線コントローラーで行なう。
また搭載バッテリーは、1回のプッシュバック作業において約30分間の運用を想定した場合、フル充電の状態で約40回のプッシュバック作業が可能となっている。完全放電状態では6時間でフル充電が完了する。


従来と同様の所要時間で作業完了 操作性・安全性にも優れる
取材当日は青森行きJAL2157便(エンブラエル190、登録記号JA244J)で、実際にMototokを使用した作業が公開された。PBB(搭乗橋)が装着された状態の機体に対して、Mototokを所定の位置まで進出させ、プッシュバック許可を待つ。
PBBが機体から外れてプッシュバックの許可が出たところで、初めてMototokが機体のノーズギアを固定し、抱きかかえるような形で持ち上げる。この際、機首が20cmほど持ち上がるが、機内ではそれほど動きを感じないという。
またプッシュバック許可が下りてからノーズギアを持ち上げるのは、前述の通り機首が少し持ち上がるため、機内の乗客の安全に配慮していることが理由だ。


プッシュバック作業は、翼端付近で周囲の安全を確認するウイングウォーカー2名と、操作員1名の計3名で実施。発進は非常にスムーズで、モーター特有のトルクフルな(力強い)動き出しだ。作業にあたったJALグランドサービス大阪 ランプサポート課の安田氏は、「通常のトーイングトラクターだと、アクセルの開度で急発進にならないようにアクセルワークに注意が必要だが、これはモーターなので、出だしからトルクがあるので扱いやすいです」と話す。
また、Mototok自体にも自重がある上に、モーターのパワーもあるため、プッシュバック中のエンジンスタートにも問題なく耐えられるという。
プッシュバック完了後の取り外しもほぼ自動で行なわれ、1分程度で完了する。トーバーと機体を固定するピンが噛んでトーバーの取り外しに難航するなどということも、トーバーレスなら皆無と言える。


免許不要でプッシュバック操作可能 訓練期間の大幅な短縮にも寄与
従来トーイングオペレーターの育成にあたっては、大型免許に加えて牽引免許の取得が前提となっていたため、現場作業者の育成には相応の時間を要する上に、熟練のテクニックが必要となる難関であった。しかしこのMototokでは前述の免許が不要となり、訓練期間の大幅な短縮が見込まれる。また実際の運用においても、航空機へのトーバーの取り付け、取り外し作業時間が大幅に短縮されるため、定時運航の実現にも大きく貢献する。
現在、伊丹空港でプッシュバック作業に従事するJALグループのスタッフは約80名おり、そのうち6名がMototokの操縦資格を保有している(取材時)。今後は若手を中心に訓練をスタートし、有資格者を増やしていくとのことだ。

脱炭素化に向け、バイオ燃料を使用した地上車両も
JALグループでのCO₂削減に関する取り組みは、完全電動駆動であるMototokの導入だけに留まらない。この5月からは、近畿地方の空港では初めてバイオディーゼル燃料(B100)を使用した車両の運用も開始。こちらもあわせて公開された。現在、貨物ドーリーを牽引する車両3台がバイオディーゼル燃料使用車両となっている。

バイオディーゼル燃料は、家庭からでる廃食油を原料として生産するディーゼル燃料で、車両に特別な改修などを必要とせず、従来のディーゼルエンジンと同様にそのまま使用することができる。昨今では同じく家庭からでる廃食油を原料とするSAF(持続可能な航空燃料)のサプライチェーンが本格稼働を開始。今年5月には関西国際空港においてJALの旅客便に国産SAFが初供給された。
こうした脱炭素化の動きはさらに加速する一方で、その安定供給に課題があった。伊丹空港でJALグループが使用するバイオディーゼル燃料の製造は大阪府に本社を置く植田油脂が担い、安定的な供給体制を目指す。

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