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ANA、羽田空港で「完全無人運転」のトーイングトラクター試験運用。レベル4自動運転実現に一歩
ANAと豊田自動織機は7月、羽田空港の制限エリア内でレベル4自動運転、つまり完全無人運転でのトーイングトラクターによる貨物搬送を試験運用している。7月16日にはその様子を報道公開。国土交通省が、2025年内の導入を目指すレベル4自動運転のGSE車両。この実現に向けた大きな一歩となるが、もちろんクリアしなければならない課題も残されている。
ANAと豊田自動織機は7月16日、羽田空港第2ターミナル側の制限エリアにおいて実施している、レベル4自動運転での完全無人運転による貨物搬送試験運用を報道公開した。
ANAグループはグランドハンドリング業務の自動化、機械化、省力化により、人と機械の分担を見直し、より少ない労力と人数で一つの航空便を運航できる体制を構築する業務のSimple&Smart化に取り組んでいる。今回対象となっている貨物搬送用のトーイングトラクターについては、2019年度から佐賀空港と中部空港、2020年度からは羽田空港で自動運転実現に向けた実証実験を重ねている。
国土交通省でも「空港制限区域内における自動走行の実現に向けた検討委員会」を立ち上げて、ANAグループを含む関係各所と議論。「2025年内にレベル4自動運転車両導入」という目標を掲げて、課題の解決に取り組んでいる。
レベル4向けに主にソフトウェア面をアップデート
このレベル4自動運転での完全無人運転による貨物搬送試験運用は7月19日まで実施。準備は5月28日からスタートし、7月2日までは運転手が監視者として乗車するレベル3自動運転に近いスタイルで検証。7月3日から運転席に監視者が乗車しない状態での無人運転を開始した。
対象スポットは第2ターミナルの63番、64番、65番スポットで、北側にある東貨物地区の貨物上屋までの約2kmを自動運転で搬送する。現在は第2ターミナル北側の延伸工事中のため、北ピアを迂回するルートとなっているが、延伸工事が終了したのちには、直線的なルートでの走行が予定されている。
使用する車両は、レベル3の試験でも使用された豊田自動織機の電動トーイングトラクター「3TE25」をベースとしたもの。3D LiDARによる周囲の空間情報、MIセンサーによる地上に埋め込まれた磁気マーカー、GNSSによる衛星測位、車両底面のカメラによる路面のパターンマッチング(技術名としてRANGARと名付けられている)を用いて自己位置推定を行なう。また、障害物検知用の3D LiDARと2D レーザースキャナも搭載。複数の方式を同時に利用することで、より高い精度かつ高い冗長性で、自己位置の推定や障害物の検知を行なえるようにしている。
車両の仕様としては、最大牽引重量27トン、最高速度25km/hとなるが、自動運転時は最大牽引重量13トン、最高速度15km/h(羽田空港の制限エリアの制限速度)で運用。ちなみに13トンはおおむねコンテナ6個分となり、試験運用においてもコンテナを載せるドーリーを6台牽引してテストしている。
レベル3自動運転のテスト時からのアップデートは、自己位置推定や障害物検知の多重化・冗長化などソフトウェア面が中心だが、3D LiDARのレーザー本数を従来の16本から32本に変更して精度を高めているとのことだ。
このほか、車両運行管理システム「Fleet Management System(FMS)」を新規開発。FMS、自動走行車両、そして機側や貨物上屋で貨物搬送に従事するスタッフが所持するタブレットが、クローズドな4G LTE網を利用して通信。車両状態の監視、車両への搬送指示、搬送の前後工程の支援指示などを、東貨物上屋に置かれたFMSで集中管理できる体制となっている。
また、車両には遠隔で監視するために、車両周囲や、ドーリーが接続される後方を映し出すカメラも搭載。遠隔での停止、再発進の指示もFMSから可能になっている(ただし、操舵などはできない)。
レベル4自動運転実用化への次のステップ
今回のレベル4自動運転による無人運転は、後方を監視車両が追従するなどの条件に基づき、実施の許可を得ている。開始から半月ほどが経過した状況での報道公開となったが、それまで120搬送ぐらいを実施し、追従する監視車両の判断で早めに停止を指示したケースがあったものの、検証の結果、停止しなくても問題は発生しなかったと判断されており、無事故で運用ができている。
そもそもレベル3自動運転は運転席に監視者が乗車し、いざというときに監視者が介入できるというのが、レベル4とのの違いだ。つまり「いざ」ということが起こらなければ、車両自体の動作は物理的にもソフトウェア的にも大差はないわけで、レベル3で車両の技術的な面での安全性、確実性に一定の実績があったからこそ、今回の試験運用につながっている。
しかし、それすなわちレベル4自動運転が可能なトーイングトラクターを「使える(=実用化できる)」ということにはならず、今回の試験運用で一定の成功を収めることで、次は、「使うための課題の解決」にフェーズが移ることを意味する。
例えば、今回の試験運用では、ハイリフトローダーや自動貨物積み付け機への寄せ付け(いわゆる前後工程)や、交通量の多い交差点での運行は行なわれていない。
前者は、現行のスペックで±300mm(停止位置は±150mmも実現している)という自動走行における位置精度をさらに高める必要がある。そのために、どのような技術を用いる必要があるかは、今後検討する必要があるという。例えば、車両が停止する位置に磁気やRFIDなど何らかのマーカーを設置するなどの案も上がっている。
このマーカーについては、自己位置推定が難しいトンネル内への設置も検討されているが、いずれもインフラ側(国交省や空港会社)の対応が必要となることで、事業者のみで対応できる範囲は限られる。交通量の多い交差点での走行については、2023年度に信号機を設置して管理する方式の実証実験を実施しているが、当面は車両に設置されたカメラの映像を見て、FMSから停止と再発進を指示することになる。
このほかにも、航空機の近くを走行する際に大きな問題となる、航空機のエンジンからのブラスト(排気)の課題がある。航空機のエンジンが稼働し、空港の制限エリアには、ブラストの影響が考えられる場所では停止して確認することが求められるが、この自動化は現在のところ実現していない。
国交省では2025年内のレベル4自動運転実用化とその先の高度化に向け、さまざまな施策を検討している。先のトンネルなどへのマーカー設置の検討もその一つだ。
そして、さらに重要な役割を占めることになりそうなのが、FMSである。今回、ANAと豊田自動織機が運用しているFMSは、あくまで事業者が自動運転車両を運用するのに必要な機能を持たせたものである。国交省では、インフラ側のFMS(共通FMS)を整備し、ここに自動運転に必要な情報を集約。それを各事業者に提供して、事業者側のFMSでその情報を活用した自動運転を実現することを目指している。
例えば、信号の状況、交差点の状況、ブラストの影響がある航空機の情報、緊急車両発進の情報などを共通FMSで提供し、事業者側のFMSでその情報に基づいた走行をする、というのが目指す姿だ。
もちろん、共通FMSでいきなりすべての課題を解決するのは難しく、あるときは事業者FMSを管理する人の力に頼りつつ、徐々に高度化を図っていくことになる見込みだ。とはいえ、現状、ANAグループなど「事業者だけ」で解決できる課題は消化しつつあり、今後はインフラ側の整備と、それに伴う事業者側の対応が、2025年内の実用化までに活発に進められることになるだろう。
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