特集/本誌より

機体への落雷を回避する、JALと三菱重工業による共同研究「Lilac」

航空機にも雷が落ちることはあり、それにより機体が損傷を受ければ修復のため路線投入ができなくなってしまう。そこで期待されているのが、JALが今年4月に使用契約を締結した三菱重工業(MHI)による避雷回避判断支援サービス「Lilac」。気象レーダーでも判別が難しい雷に威力を発揮する!
※本記事は月刊エアライン2024年7月号掲載のNEWS記事を、Web向けに変更のうえ転載したものです。

文:本誌編集部 写真:日本航空
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積乱雲よりも避雷リスクが高い、空の全域を覆うような乱層雲のイメージ(写真は鹿児島空港)。

小松空港など、日本海沿岸で多発する冬の雷にも効果的

 雷というと夏場の積乱雲を伴うものをイメージするかもしれないが、機体搭載の気象レーダーにも強く反応するこうした大型の雲の場合、避雷のリスクも容易に判断することができる。より問題なのは、空全体を覆う雨雲である乱層雲などに起因する誘発雷で、気象レーダー上では強弱を判別しにくいことから、ここを飛行する機体が避雷してしまうケースが少なくない。たとえば小松空港は、冬場にもしばしばこうした誘発雷が発生することで知られているが、実際には秋田や出雲など日本海沿岸の空港で広く発生している。
 これまでは、過去の実績から避雷リスクが高いと判断される山の周辺を回避して飛行するなどの対策を講じてきたが、ILS(計器着陸装置)の飛行経路から外れてしまうといった弊害もあり、パイロットを悩ませる要因となっていた。

大型の積乱雲と違い、乱層雲の場合はコクピットの気象レーダー画面でも強弱の判別が難しい。
787やA350など複合材料製の胴体を持つ機体の場合、修復の期間は従来の金属製の機体よりも長期におよぶ可能性が高い。
複合材料製の胴体の修復風景。非破壊検査により炭素繊維の剥離を発見後、ほこりや水分の浸入を防ぐクリーンな環境のなかで損傷を除去し、炭素繊維層を形成していく。

パイロットへの情報提供は、ACARS経由のアスキーアートで

 避雷した場合、機体が受けた電流は主翼後縁に装備するスタティックディスチャージャーから放電されるが、それでも着陸後に避雷による機体損傷が確認された場合はもちろん修理の必要が発生し、特に787やA350など複合材料を多用した機材では修復工程が複雑化することから、最長で15日間もの期間、路線投入できなくなる場合もある。それによる逸失収入や整備コスト発生による損失は、年間数億円(10億円に近い)にもおよぶという。
 今回導入したLilacは気象庁の最新観測情報を元に、JAXAの避雷危険性予測技術を活用しながら、MHI独自のAI予測モデルで避雷回避の判断情報を導き出すもので、JALとMHIは2019年から共同研究を行なってきた。
 乱層雲に遭遇するのは、パイロットのタスクが集中する離着陸フェーズであることから、Lilacの開発においては「的確性」「即応性」「信頼性」の3点を重視。必要かつ十分な情報を、ほぼ全ての運航機材に対応可能なACARS(コクピット内でプリントアウトできる文字情報)を通じて、アスキーアートという手法で視覚的に提供する。Lilacの情報をモニターしパイロットへと送信するのは、各空港(あるいは、本社の運航中枢であるIOC)のオペレーション担当者である。
 まずは運航便数が多い羽田(成田空港の周辺空域)・伊丹・福岡・鹿児島・那覇で運用を開始し、冬には日本海側の小松・青森・秋田・出雲でも、JALグループ全体で活用していく計画だ。

右側のLightning Potentialのゲージは下側(0.5側)が緑、上側(1.0側)が濃い赤で、羽田空港を中心に成田までカバーする地図内に避雷可能性の強弱を色で示している。(下の画像に続く)
「Lilac」ではこの画像の情報をアスキーアートとしてACARSで送信し、機上でプリントアウトする仕組みだ。仕様決定にはJALのパイロット自身が深く関わった。
航空機にも雷が落ちることはあり、それにより機体が損傷を受ければ修復のため路線投入ができなくなってしまう。そこで期待されているのが、JALが今年4月に使用契約を締結した三菱重工業(MHI)による避雷回避判断支援サービス「Lilac」。気象レーダーでも判別が難しい雷に威力を発揮する! ※本記事は月刊エアライン2024年7月号掲載のNEWS記事を、Web向けに変更のうえ転載したものです。

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