連載
二宮忠八創建。京都八幡の飛行神社で、本邦航空文化の芽吹きを感じた日
月刊エアラインでは9月30日発売の11月号「伊丹空港」特集を予定しており、その取材のために何度か伊丹空港を訪れている。そんなさなかのある日。取材の予定がなかった半日を利用して少々足を延ばし、京都府八幡市にある「飛行神社」を訪れた。そんな「ある日のヒコ活」。

京都府八幡市にある飛行神社。航空にまつわる神社はいくつかあるが、国内における嚆矢となったのがここだ。創建したのは、二宮忠八。ゴム駆動のプロペラ模型飛行機である「カラス型飛行器」、そして有人飛行を目指した「玉虫型飛行器」と、日本の航空黎明期に足跡を残す人物であることは広く知られるところだ。
その二宮忠八が創建したのが飛行神社である。それが1915年(大正4年)のことで、2025年で110周年ということになる。創建の経緯などは後述するとして、まずはヒコーキファンの観点から本社を楽しんでみよう。

京阪電車の石清水八幡宮駅を降り、石清水八幡宮を横目に徒歩で10分ほど。京都府八幡市に建設されたのは動力有人飛行機の開発に向け、出身地であった愛媛県八幡浜市と名前が似ている京都府八幡町(当時)に自邸や発着フィールドを所有したことによるものだ。
現在地は住宅街のなかで、入口はちょっと豪華なお宅の門のようでもあるが、一歩足を踏み入れると西洋の神殿のような建物が目に留まる。神社の雰囲気はあまり感じられないのだが、奥に足を踏み入れると、手水舎があり、金属製の鳥居があり、しめ縄に結び付けられて白くたなびく紙垂があり……と、ここが確かに神社であることを認識する。

ちなみに、神殿風の建物は拝殿で、その奥に飛行神社の社殿がある。現在の建物は、1989年(平成元年)に、二宮忠八による飛行原理発見から100年を記念して、その次男である顕次郎によって建てられたものとなる。「空は1つ」の想いから、世界各国の人々に参拝に訪れてもらえるよう、拝殿を西洋風のデザインにしたのだという。
社殿には、創建時からの飛行神社の祭神で古代の空の神と言われる「饒速日命(にぎはやひのみこと)」が、磐船神社(大阪府交野市)から分霊されている。航空事故の殉難者や航空業界に功績を残した人を祭る「祖霊社」、大日本製薬に勤めた二宮忠八の薬学界における功労者を祭る「薬光神社」の3つが。そして離れたところに、福徳をもたらす「常磐稲荷社」がある。
また、その隣には「飛行神社資料館」がある。資料館については後述するとして、まずは、入口にある社務所について紹介したい。ここがかなりヒコーキファンの心をくすぐる場所なのだ。




先に手水舎があることを記したが、ここには無数の飛行機が浮かんでいる。空港の売店などでも見かける「ぷにゅ丸くん」に、訪問者が願いごとを書いて浮かべているのだ。しかも、よく見ると手書きで描かれた海外エアラインの飛行機もいる。
ぷにゅ丸くんシリーズにはANAとJALがラインナップされており、当初はこの2種類を社務所で取り扱っていたが、飛行神社を訪れた海外エアラインの乗務員などから「うちの飛行機も…」という希望があったことから、販売元の丸彰に相談して、無地の「ぷにゅ丸くん」を特別に手配しているのだ。そして、カラーマジックも用意し、好みの機体をデザインできるようにしたという。
ところで、あるとき手水に浮かぶ飛行機がANA機ばかりになったことがあったという。さらに、そこには「4A成功」の文字が書かれていたという。調べて見ると、羽生結弦選手を応援するメッセージで、大阪での選手権大会が中止になった際に、多くの羽生結弦選手のファンが飛行神社を訪れ、やはり「飛ぶ」行為である4回転アクセル(4A)成功を祈願したのだという。

ちなみに、宮司の友田 享さんはさぞかし飛行機に深く関わった、あるいは愛に満ちた方なのだろうと思いきや、飛行神社の宮司になるまで、特に飛行機には縁がなかった。「飛行機やロケットについてなにも知らないことが、かえってよかったと思っています。無知を自覚していますので逆に聞きやすかったのです。専門家の方も多く、重要なポイントだけを教えていただけます」と、参拝者あるいは祈祷の希望者などからの教示で知識を身につけたそうだ。祈祷の際は、そうして話を聞くことで、専門的な情報を盛り込んだ祝詞を作ることもあるという。
こうした参拝者からの話を聞く、教えを請うというスタンスは、先の「ぷにゅ丸くん」のエピソードからも垣間見えるだろう。社務所に並ぶほかの授与品も、シンプルに航空の安全を祈願するものから、就職祈願に訪れる人や自衛隊員、民間航空会社の来訪が多いことから「合格御守」や「任務遂行守」などを用意。フライトタグ風の御守もヒコーキファンには魅力に映るだろう。
またフライトタグ型の御守もあり、そこにはRWY17/35の滑走路が描かれている。「神道では奇数が縁起のよい数字と言われています。17/35の組み合わせは滑走路の2つの数字が奇数の組み合わせになるように選んでおり、社殿の敷石もほぼ同じ角度に並べています」というこだわりが詰まっている。
なかでもユニークなのは、「“神”飛行機おみくじ」だ。内容を読んだあとに、結ぶ以外に、紙飛行機にして奉納するための鳥居が用意されている。結ぶための縄も用意されており、そちらにも何枚かのおみくじは見られたが、紙飛行機にして奉納されている数の方が圧倒的に多い。
神社なので厳かな気持ちは持って訪れたいが、ここで楽しい気持ちを抱くのは神様に対しても失礼にはならないだろう。せっかくならよい思い出を残したいし、ヒコーキファンならそんな気持ちで帰れると思う。



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日本流の航空文化を創った飛行神社
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