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キャビンの太さは、旅客機の経済性を左右する ~ 連載【月刊エアライン副読本】

文:阿施光南 写真:阿施光南
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【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。

 新型旅客機の経済性の高さは、燃費のよいエンジン、効率のよい主翼、そして軽量化などによってもたらされる。しかし胴体の形が強くアピールされることは、ほとんどない。

 新型機ではコクピット部の段差がなくなってスマートな印象があるが、その抵抗減少は微々たるものだ。古い旅客機の改良型である737 MAXや777X、A320neoやA330neoが同じ「顔つき」のままなのも、わざわざ設計変更しても割に合わない程度の効果しかないからといえる。強いていえば737 MAXは後部のAPU付近の形を変えたが、ここは非与圧区画のため変更も容易だったはずだ。

737は、世代を重ねるごとにエンジンや主翼を新しくすることで経済性を高めてきたが、胴体断面や機首については初期型のままだ。
737は、世代を重ねるごとにエンジンや主翼を新しくすることで経済性を高めてきたが、胴体断面や機首については初期型のままだ。
ANAが運航していた737-200。
ANAが運航していた737-200。ごく少数が生産された737-100はさらに約2m短く、100席クラスの旅客機としては異例に胴体が太かった。

 むしろ胴体で経済性に影響するのは、断面の大きさと形だ。断面積はそのまま空気抵抗に直結するし、表面積を減らせば摩擦抵抗や重量も軽減できる。

 とはいえ胴体にも座席数に応じた適切な太さや長さの割合がある。目安としては、19席以下が横2席(Do228など)、19~50席が横3席(ツインオッターやサーブ340Bなど)、40~100席が横4席(CRJやE-Jet、DHC-8やATR)、100~150席が横5席(A220やDC-9系)、そして150~250席が横6席(737やA320)といったところだ。これよりも胴体を細長くすれば空気抵抗は小さくなるかもしれないが、胴体の剛性低下や離着陸時の機首上げなどにも支障がでやすい。

737-100のライバルだったDC-9-10は90席クラス。
737-100のライバルだったDC-9-10は90席クラス。737よりもスマートなのはシートが横6席ではなく5席のためで、空気抵抗は小さかったはずだ。
DC-9シリーズ最長のMD-90は、初期型よりも胴体が約1.5倍に伸びて170席を装備。
DC-9シリーズ最長のMD-90は、初期型よりも胴体が約1.5倍に伸びて170席を装備。ただし同じ席数の737-8よりも約7mも長く、ほぼ限界の細長さ。

 また、737とA320はあえて胴体を太くすることで世界的なベストセラーになったことも忘れてはなるまい。737最初のモデルは100席で、普通ならば横5席や横4席が適当だ。しかしボーイングは、より大型の707や727と共通の太い客室断面(横6列)とすることで開発期間の短縮と製造の効率化を狙った。

 ずんぐりした胴体はライバルたちよりも空気抵抗が大きかったはずだが、「大型機と同じ快適さ」は好評で、発展の余地も大きかった。

36席のサーブ340Bのキャビンは横3席配置。
36席のサーブ340Bのキャビンは横3席配置。窮屈な印象はともかく、オーバーヘッドビンがきわめて小さく片側にしかないのが不便だった。
横4席配置のQ400やATRなどもオーバーヘッドビンが小さいため、大型機とは別の手荷物制限が適用される。乗り継ぎなどでは注意が必要だ。画像はQ400。
横4席配置のDash 8(Q400)やATRなどもオーバーヘッドビンが小さいため、大型機とは別の手荷物制限が適用される。乗り継ぎなどでは注意が必要だ。画像はDash 8(Q400)。

 さらにライバルのA320は、737と同じ横6席配置ながら737よりも約20㎝広い3.95mの胴体径とした。だからといってA320が737よりも広々としているという実感はないが、これだけの差がオーバーヘッドビンや床下貨物室の大型化を可能にした。床下貨物室にはコンテナも搭載でき、それによって地上作業を効率化できた。

737よりも胴体幅を20㎝大きくしたA320。わずかな差なようでも、大型オーバーヘッドビンや、床下貨物室へのコンテナ搭載を可能にした。
737よりも胴体幅を20㎝大きくしたA320。わずかな差なようでも、大型オーバーヘッドビンや、床下貨物室へのコンテナ搭載を可能にした。

 逆に三菱スペースジェット(旧MRJ)は、あくまで細さにこだわった例だ。客室部分はライバルのE-Jetとほぼ同等だが、床下貨物室を廃して断面積を小さくした。ただし貨物室は客室後方に設けたため、搭降載にはベルトローダーが必須になったし重心への影響も大きい。貨物室では壊れやすい荷物の積み重ねや荷崩れに注意が必要だが、使い勝手についてはグランドハンドリングスタッフの声を聞く前に開発中止となってしまった。

E175と見比べると、日本刀をイメージしたというMRJの細さがきわだつ。
E175(左)と見比べると、日本刀をイメージしたというMRJ(右)の細さがきわだつ。客室の広さはほぼ同等だが、床下貨物室の有無がこの差になった。
E175の床下貨物室には軽トラックの横付けでもアクセスできるが、MRJの貨物室床は客席と同レベルのためベルトローダーなどが不可欠だ。
E175の床下貨物室には軽トラックの横付けでもアクセスできるが、MRJの貨物室床は客席と同レベルのためベルトローダーなどが不可欠だ。

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