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パナソニック コネクトの機内エンタメ機器の現場へ! 日本で“モノ作り”をする、そのこだわり

旅客機の機内エンターテインメントや機内Wi-Fi/インターネットのシステム製造において、グローバルに展開するパナソニック コネクト。この製造を担うパナソニック北門真拠点の工場を訪問。設計・開発は海外拠点でも行なわれるが、機器の製造はこのすべて日本で行なわれる。グローバルなビジネスの印象がある航空業界だが、機内のエンタメを国内の工場が支えているのだ。その現場を訪れた。

文:本誌編集部 写真:本誌編集部
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国内外の航空会社に採用されているパナソニック コネクト/Panasonic Avionicsの機内エンターテインメントシステム。その製品の特徴を訊くとともに、製造現場を見学した。

 パナソニック コネクトは4月24日、大阪府門真市にあるパナソニック北門真拠点において、報道関係者向けにアビオニクス事業に関する説明会と工場見学を実施した。

 パナソニックグループ内で主にB2B事業を手がけるパナソニック コネクト。この事業の一つが、アビオニクス事業だ。国内では、北門真にアビニクス・ビジネス・ユニット(ABU)を置いて開発・設計、製造、調達、品質管理を行なっている。航空機に興味がある方なら、Panasonic Avionics Corporation(PAC)の社名を耳にすることも多いと思うが、こちらはパナソニック コネクトの傘下にある米国の事業会社となる。

 同社のアビオニクス事業について説明した、パナソニック コネクト 執行役員 アソシエイト・ヴァイス・プレジデントでアビオニクスビジネスユニット長を務める加藤大地氏は、その歴史の始まりが「ペッパーラジオ」であることを紹介。この軽量化・小型化技術の展開先を検討するなかで、1978年にプロジェクトを組んだのがJALであり、それがパナソニック、当時の松下電器産業におけるアビオニクス事業のスタートとなった。

 ちなみに、興味のある方は「Panasonic Avionics PMA Part number」といったワードで、FAAが承認したパナソニックの航空関連パーツを検索してみてほしいのだが、その型番の多くは「RD-」で始まっていることが分かる。これも「RaDio」から来ているそうで、ラジオ事業への思いを感じることができる。

パナソニック コネクトの北門真拠点では、旗を持った多くの従業員の方に出迎えていただいた。
パナソニック コネクト 執行役員 アソシエイト・ヴァイス・プレジデント/アビオニクスビジネスユニット長の加藤大地氏。
1976年に発売された“ナショナル”の「ペッパーラジオ」。同社のアビオニクス事業の源流がここにある。

 アビオニクス事業は先述のとおり国内のABUと、米国のPACが中心となって事業を進めているが、加藤氏は「品質を重視して日本でモノ作りをしている」ことを同社の特徴に挙げる。航空機に搭載する機器は、とりわけレギュレーションが厳格で、安全性や難燃性、電磁波障害への耐性や、トレーサビリティ管理などが細かく定められている。また、航空機自体の耐用年数が長く、航空機メーカーや航空会社からは長期のサポートや供給も求められる。

 それゆえに、「品質は事業の命 顧客の信頼が明日の事業を支える」を基本方針に、製造に関しては、品質の高さを誇る“日本のモノ作り”が可能な、この北門真拠点で一貫して行なっているのである。

 ちなみパナソニックグループ内でも産業機器などは長期サポートを行なう事業があり、パーツやリペアを長期にわたって保証するノウハウには共有できる部分があるという。それでも、航空機における20年、30年といった超長期間のサポート、さらにインテリアに関してはレトロフィット、あるいはアップグレードされることもあり、機内エンターテインメントシステムや機内インターネットはハードウェアだけでなくソフトウェアもサポートが必要、と多くの独特な点があり、航空業界が求める品質を提供するには1970年代からの同事業で培われたものが今に活かされている。

 そのように、製造は国内で一貫している同社だが、設計・開発は米国でも行なわれており、これは国内外の顧客ニーズに合った製品開発を進めるためだという。ここでいう“顧客”とは、航空機メーカー、航空会社、飛行機の乗客のすべてが、パナソニックが対象とする顧客となる。

 航空機メーカーには主にOEMの形での供給となるが、例えばパイロットと客室乗務員がやりとりする機内インターフォンや、乗客への機内放送(Passenger Announcement)、機内の空調や排水タンク、オーブンや冷蔵庫のモニター・制御などを行なうキャビン・マネジメント・システムをボーイングに納入しているという。パナソニックの名前が表に出ることはあまりないが、これも同社アビオニクス事業の柱の一つだ。

 航空会社からは時代に応じたニーズがあり、昨今であれば軽量化やアップグレード費用を抑制し、運用の低コスト化や環境負荷を下げることが求められる。乗客が長時間のフライトをいかに快適に過ごせるかが大きなニーズで、それに応える製品が求められる。こうした製品を望むのは、乗客が直接の顧客となる航空会社も同じだろう。

OLEDで薄型化、USBなどのモジュラー化で機能拡張も容易

同社の最新機内エンターテインメントシステム「Astrova」。OLEDの採用による映像品質の高さを乗客に届けるだけでなく、小型・軽量化で航空会社のニーズにも対応している。

 このようなニーズに応えた、同社の機内エンターテインメントシステムの最新プロダクトが「Astrova」である。このあと紹介する製造現場の見学は、このAstrovaの製造・検査過程を見るものとなったので、ここで本製品の特徴をまとめておきたい。

 Astrovaという製品名は、「Astro」と「Strove」を組み合わせた造語で、星に届くような(Astro)機内体験を実現していく(Strove)という思いを込めている。最初の顧客であるアイスランド航空には2025年5月に納入され、日本式にだるまの目入れでお祝い。片方を出荷時に門真で、もう片方をアイスランド航空の納入時に現地で目入れしたという。この目が入っただるまは2体あり、1体はここ北門真、もう1体はアメリカの拠点に置いているという。

北門真拠点からのAstrovaの初出荷時と、アイスランド航空への納入時に片目ずつ目入れをしただるま。

 というのも、Astrovaには13インチから42インチまで7モデル(13″/16″/19″/22″/27″/32″/42)のモニターサイズがラインナップされているが、日本開発のモデルとアメリカ開発のモデルがある。日米がそれぞれの地域性に合ったテイストを盛り込むなど、連携して開発を進めているのである。

 そして、このモニターにOLED(有機EL)を採用したのも特徴で、これにより大幅な薄型化を実現した。もちろん解像度は4Kに対応しているうえ、液晶とは異なり黒をしっかりと表現できることからコントラストの高い、見映えのよい映像でコンテンツを楽しめる。

パナソニック コネクトの最新機内エンターテインメントシステム「Astrova」。13インチから42インチまで7種のモニターサイズをラインナップする。
左が既存製品、右がAstrovaのOLEDのモニター。これがユニットに組み込まれて各シートに取り付けられる。
左が既存製品、右がAstrovaのOLED。薄さとフレームの細さは一目瞭然だ。

 薄型化したことに加えて、大幅な軽量化を実現しているのもポイントで、シート裏に装着する16インチモデルのユニットで比較した場合、従来品が1シートあたり約1.5kgであったのに対して、約半分(700~800g)に抑えているという。

 この軽量化には、機内エンターテインメントに必要なシステムを座席下のボックスに集約し、シート裏に取り付けるモニターのユニットに載せないよう設計を変更したこと、コネクタの小型化などの工夫で実現したものとなっている。

シートに取り付けるユニット。高く掲げられているのがAstrovaで、裏面の金属板の廃止、コネクタの小型化などさまざまな工夫によってユニット自体の小型・軽量化も実現した。
Astrovaのシートユニットの下部は取り外しが可能なモジュラー構造。USBや音声などのインターフイスを、ニーズに応じて変更しやすい設計となっている。

 また、先の段落で、重量を“約半分”と表現しているのにも理由がある。モニターの下部が着脱式になっており、インターフェイス類をカスタマイズできるモジュラー構造になっているのだ。モジュールによって重量に差があるため、“約半分”という説明になったのである。

 この構造はアップグレード性に効果がある。現在はUSB Type-AとType-Cがメジャーなインターフェイスだが、未来永劫この状態であるとは誰も言えない。インターフェイスのトレンドに急変が起こったとしても、このモジュールを変えるだけで、いろいろなインターフェイスに対応できるのである。当然、シートモニターを丸ごと交換するよりもコストを抑えることができ、航空会社の顧客サービスを高め、かつ長期的なサポートにも対応するための仕組みなのである。

Astrovaのシートユニットの下部は取り外しが可能なモジュラー構造。USBや音声などのインターフェイスを、ニーズに応じて変更しやすい設計となっている。
Astrovaには調光可能なライトも利用可能。
フライトマップのようなコンテンツも同社のアビオニクス事業の一つの柱だ。

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