特集/本誌より

福岡空港を見守る新管制塔に入った! そして3月、増設滑走路が運用開始へ。

2025年3月末にせまる増設滑走路のオープンを前に、2024年12月5日に運用を開始した福岡空港の新管制塔。これまでの管制塔は東側の国内線ターミナルに並ぶ立地であったが、およそ3倍の高さとなった新しいタワーは西側の国際線ターミナルに隣接して建設されている。その供用開始直前、その運用室を訪ねた!
※本記事は月刊エアライン2025年2月号特集から転載したものです(情報は2024年12月27日の同誌発売日時点)。

文:山田 亮(本誌編集部) 写真:山田 亮(本誌編集部)
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13階に位置する飛行場管制業務の管制室。床面積は旧管制塔の2倍に増えて、足を踏み入れた瞬間から(過去の取材で訪れた他の官署と比較しても)その広さを感じた。なお、使用される管制卓は従来からのシステム(TAPS)で変わりない。
国際線ターミナル前の駐車場から撮影した新管制塔。空港内および半径約9キロ・高さ約900m圏内(管制圏)を飛行する航空機を管制する。管制室の下の階には、台風などの強風時に揺れを抑制する制振装置を備える。

新しい福岡空港のランドマーク。那覇を超え、羽田空港に次ぐ高さに

 ここ数年間にわたり、国内線ターミナルをはじめとする多くの施設が姿を変えてきた福岡空港。総仕上げと言えるのが2025年3月末にオープンする長さ2,500mの増設滑走路(平行する現滑走路は2,800m)で、それに先立ち整備されたのがこの新しい管制塔である。12月5日午前7時の供用開始を前に、その最上階にある管制室(飛行場管制業務の運用室=VFR室)を訪ねた。

 これまで福岡空港の管制塔といえば、航空局庁舎の上部に乗っかったような形状で、一見すると“塔”と言えるものがないような独特の構造であった。旧管制塔の高さはわずか31.4mで、これは滑走路までの距離が近すぎることから、安全な離着陸のために設定されている制限表面の規定により、それよりも高い建造物を造ることができなかったためだ。

 都市の真ん中にあって、空港内の密度が高い福岡空港らしい事情だが、いよいよ増設滑走路が誕生するにあたっては、滑走路を挟んだ反対側に、新管制塔(航空局庁舎を含む)を建設する必要が生じた。移転場所は国際線ターミナルから道路を1本隔てた場所にあり、地上90.9m、頂部の空港面探知レーダー(ASDE)まで含めれば94.2mで、この高さは羽田空港に次ぐ国内第2位だ。まさに、福岡空港の新しいランドマークと言える存在感を放つ。

飛行場管制席、地上管制席、管制承認伝達席、調整席を配置し、時間帯(便数)にもよるが、増設滑走路の供用開始後はおおよそ10人体制での勤務が基本になるという。なお、滑走路ごとに担当を分けるような運用は行なわない。
管制室の中央部分には、業務全体を見る統括席や事務スペースを配置する。
T-4など自衛隊機も発着する福岡空港だけに、両滑走路端にはオーバーランに備えたバリヤを設置。作動時は管制室から操作する。
この日は福岡のメディアを中心とした新管制塔の報道公開が実施されていた。福岡空港事務所の森島隆広 空港長は、「新しい管制塔が地域の方々に空港に興味を持っていただく、そのシンボルになれば嬉しいです」と想いを語る。

重視したのは、増設滑走路と現滑走路の状況を瞬時に判断できること

 しかし、不思議に思う方もいるかもしれない。
 近年建て替えられた管制塔は、羽田空港(供用開始2010年)にしても那覇空港(同2020年)にしても、沖合に新しい滑走路が新設されたことで、空港の敷地そのものが拡大して、従来の管制塔ではその新滑走路の末端までを視認することが困難になったことが主要因としてあった。この点、福岡空港の場合は従来からの空港の敷地内に滑走路を増設していて、より遠くを視認する必要が生じたとは言えない。

 この疑問について、国土交通省大阪航空局 福岡空港事務所の森島隆広 空港長は「210mという狭い間隔で増設される新滑走路と現滑走路の位置関係と管制塔からの視界、また2本の滑走路の南端(RWY34エンド側)は長さが300m短い新滑走路が内側に入り込む形状となっていて、そうした配置と交通の状況を航空管制官が瞬時に、感覚的に捉えられる高さが必要でした」と説明する。

 ただ、その立地が滑走路を挟んで反対側に移転したことで、これまで“右手が北”だったものが“右手が南”に変わってしまう。こうした変化に対応するため、航空管制官たちはシミュレーターによる慣熟訓練を重ねて、新管制塔での業務に備えてきたという。
 なお、2本の滑走路の役割分担としては、(国内線ターミナル側にある)現滑走路は“全ての到着機と国内線の出発機” に、精密進入に対応しない増設滑走路は“国際線の出発機”に充てるのが基本とされる。
 今後の計画としては、2025年2月にターミナルレーダー管制業務の運用室が旧庁舎から移転してきて、これを以って本格的な整備完了を迎える予定だ。それまでは福岡空港事務所の航空管制官たちも、その日の担当(飛行場管制業務か、ターミナルレーダー管制業務か)によって、新旧の庁舎を往来しながら業務にあたる。

●新管制塔と滑走路の位置関係
新旧管制塔では滑走路を見る方角が逆転。つまり、左右の南北方向が変わるわけだから、航空管制官たちの慣熟訓練はシミュレーターを使用して入念に実施された。
①RWY16エンド(北)方向
新管制塔から左手方向を臨む。手前に海外エアライン各社の機体が並ぶ国際線ターミナル。滑走路長の異なる2本の滑走路だが、北側の末端は揃えて配置されている。
②国内線ターミナル方向
新管制塔からは滑走路を挟んだ向こう側に位置する国内線ターミナル。その右隣にあるグレーの建物が旧管制塔(旧航空局庁舎)で、ターミナルビルと高さがほぼ変わらないことがわかる。
③滑走路中央方向
ANA機が着陸滑走中の現滑走路と、(FUKUOKAの文字を挟んで)手前の新滑走路の中心線同士の間隔はわずか210mだから、同時出発や同時進入はできない。
ただし、現滑走路に着陸進入中の到着機がある場合にも、出発機をあらかじめ増設滑走路で待機させられるなど、2本化による運用効率の向上が期待できる。
④RWY34エンド(南)方向
新管制塔から右手方向を臨む。300m短い増設滑走路の末端は(現滑走路より)内側に入り込むような形状となっており、そうしたことを瞬時に、立体的に把握できる高さが新管制塔の90.9mであった。
⑤ほぼ完成状態の増設滑走路
供用開始前であるため誤着陸防止のバツ印が複数記されているが、増設滑走路そのものは3月末の運用に向けてほぼ完成しているように見受けられた。
管制塔だけではなく、福岡空港事務所の庁舎そのものが移転し、事務的な機能もこの取材日の前日(2024年12月2日)から稼働したとのことであった。気象庁の福岡航空地方気象台もここに同居する。
従来の福岡空港の飛行場管制は、コールサインこそ「タワー」ではあったが、「塔」ではなく国内線側の庁舎ビルの屋上に置かれた運用室で行なわれていた。高さは31.4mで、そこからの見え方は羽田空港の展望デッキからの眺望をイメージしたものに近い。
Photo:阿施光南
2025年3月末にせまる増設滑走路のオープンを前に、2024年12月5日に運用を開始した福岡空港の新管制塔。これまでの管制塔は東側の国内線ターミナルに並ぶ立地であったが、およそ3倍の高さとなった新しいタワーは西側の国際線ターミナルに隣接して建設されている。その供用開始直前、その運用室を訪ねた! ※本記事は月刊エアライン2025年2月号特集から転載したものです(情報は2024年12月27日の同誌発売日時点)。

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