連載

悪天候で揺れた香港へのフライト 〜 連載【パイロットが乗客に! マニアック搭乗記】

普段、飛行機の一番前にあるコクピットに座るパイロット。そんなパイロットは乗客としてキャビンに乗っても、フライトのことが気になってしまうもの。 本連載ではパイロットが1人の乗客として海外エアラインのフライトに搭乗。乗客として得られる限られた情報からフライトの出来事を予想したり解説したりしていくとともに、日本の航空会社との違いや機体の特徴などに着目するという、パイロットならではのマニアックな視点からのフライトレポートをお届けする。第1回はキャセイパシフィック航空のA350に乗って、関空から香港へ向かった。

文:Hide(ボーイング737機長) 写真:Hide
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関西空港で出発準備中のA350。「たぬき顔」とも言われる機首部分が特徴的です。キャセイの塗装もとてもよく似合っていますね。

まずは航路上の天候をチェック

 まず初回は、昨年12月にリニューアルされたばかりの関西空港新国際線エリアから出発。香港でキャセイパシフィック航空の新旧フラッグシップを乗り継いで、その違いや特徴などをレポートしたいと思います。

 出発前に、まずは今日の天気を見ていきましょう。本邦南側に前線が停滞。先島諸島は雨模様で、前線の先は香港の近くまで伸びています。またSIGMET※も出ていて、前線付近はかなり高高度まで積乱雲が発達している予想です。

※世界気象機関(WMO)において、航空機の安全に影響する可能性がある航空路上の特定の天気現象の発現や予想について、気象監視当局が発表する情報。

当日は停滞前線が本州の南に位置し、低気圧の通過もあって関西空港は雨模様でした。高気圧の縁にあたる先島諸島や台湾には湿った空気が流れ込みやすく、積雲系の雲の発生も予想されます。
気象庁HPより

 関西地方は小雨が観測され、目的地の香港は時おり雷雨が予想されています。また香港国際空港では、滑走路方向からすると正面ではあるものの、やや強めで突風を伴った風が吹く予想が出ています。

 これらの情報から、今日のフライトでは関西から上昇中はしばらく揺れが続き、雲の上に出れば巡航はスムーズになると思われます。しかし香港が近づくにつれて雨雲を避けながらの飛行(WEATER DEVIATIONと言う)が必要で、降下中から着陸間際まで強めに揺れることが予想されます。

地上天気図からも判断できるとおり、沖縄から西では雨雲が発達していて、フライト後半は揺れると思われます。
Image Source –
www.ventusky.com

関西空港の新国際線エリアから出発

 では実際のフライトをお届けしましょう。今日のCX597便の使用機材はA350-941、登録記号はB-LRS。2017年8月にデリバリーされた機体で、就航から約7年が経過した、A350の中では比較的初期に製造された機材です。

 早めに空港に到着してチェックインをします。最近は搭乗手続きから出国審査まで機械で済ませられるようになっていることに、改めて時代の流れを感じますね。3階の出国審査を抜けてターミナルビルの2階に降りるのですが、以前の国際線出発フロアは3階だったので、少し違和感があります。

 この関西空港の新しい出発フロアは、従来2階の国内線で使用していたカウンター裏に保安検査場と、国際線保安エリア内の免税店を作るためにリニューアルされています。

関西空港の国際線出発エリアは、空港にいることを忘れさせるような贅沢な空間に生まれ変わっています。

 日本では珍しい雰囲気の新国際線フロアに圧倒されていると、ベトナム人のおじいちゃんが困り顔で話しかけてきました。詳しく話を聞くと、どうもハノイから早朝に到着したものの乗り継ぎの方法がわからないらしく、チェックインカウンターに出たいとのことです。空港職員でもない一人の旅行客である私に助けを求めてこられたのも何かの縁だと思い、慣れない新国際線フロアを右往左往しながらも、なんとか出国検査場まで一緒に逆戻りして係員の方に対応をお任せしました。かなりご高齢で、旅慣れない様子の方のお手伝いができたことに満足しながら、しばし関西空港の国際線出発フロアを散策します。

 従来はターミナルの中央にあった国内線ゲートが南側に移動したことで、以前の整然とした動線から若干歪(いびつ)な形へと変貌を遂げた関西空港。ウイングシャトルに乗るためには一度3階に上がらなくてはならなくなり、多少の慣れを要するように思います。しかし現在もリニューアルの真っ只中。2025年春には新しい検査場や国際線ラウンジもオープンするようで、より分かりやすく時代を反映した施設に生まれ変わることを期待しています。

 ターミナルビルはお客様が多く盛況で、しかも外国人がかなり多めです。本当に円安の影響を実感します。

19番ゲートには早発の案内が。ゲート入り口からも遥か先まで見渡せる構造は関西空港ならではですね。

搭乗機は最新のエアバスA350-900

 早めに出発ゲートに行くと、出発時刻がスケジュールよりも10分早くセットされていました。出発時刻の後ろ倒しはよくあっても、前倒しとなると国内ではほとんど見ない運用です。

 久しぶりのA350-900にワクワクしながら機内に入ります。天井が高く、LED照明が効果的に開放感を演出しています。私の席は後方通路側。乗客は約7割ほどで、やはり外国人が多い印象です。座席にあらかじめセットされている毛布や枕、ヘッドホンがフルサービスキャリアの国際線らしく、久々の旅客としての搭乗に胸が高鳴ります。

客席から前方を見たところです。大型のOHS(手荷物収納棚)や明るい照明が新型機であることを印象付けます。

 搭乗中にはコクピットから機長のアナウンスが入りました。これも外国の会社にはよくあることですが、今日のクルーの名前やフライト状況など簡潔に伝えるキャプテンアナウンスはとても好印象でした。私もぜひ取り入れたいと思うところです。

 国内キャリアとは客室乗務員の動きも少しずつ異なるのが印象的で、例えばドアモード変更をプッシュバック開始後に行なっていたり、コクピットから「Cabin crew, please be seated for takeoff.」のアナウンスが来てから客室乗務員が着席するなど、非常に新鮮に思えます。また飛行機はプッシュバック中にエンジンスタートを行ないますが、左からスタートしていたように思います。

 この日は関西空港RWY06Rから離陸。関西→香港という距離はA350にとっては短距離路線にあたり重量に余裕があるのだと思いますが、一気に4万フィートまで上昇してしまいました。特に今日の天候的には巡航高度が高いほうが良さそうなので、A350の性能を存分に発揮できるフライトだと思います。

A350の特徴である液晶表示のシートベルト着用サイン。初めて見た時は驚いたものです。

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香港が近づくにつれ、揺れの影響で長時間シートベルトサインが点灯