連載
無駄のない角断面と、無駄を活かした円断面 ~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
旅客機の胴体断面は、たいてい円い。その理由はまず、円い方が機内の与圧に耐えやすいからだ。気圧の低い高高度を飛ぶ旅客機は、胴体内に圧力をかけて乗客が快適にすごせるようにしている。そのため胴体は風船のように膨らもうとする力を受けるが、円断面だとそうした力が均等にかかって無理がない。

それを感覚的に理解するなら、四角いキャラメル箱に強引に空気を吹き込んで膨らませてみればよい。角が広がって丸みをおびるだろう。内部に圧力がかかったときにはそれが自然な形であり、角を維持しようとするならばかなり丈夫な構造にする必要がある。それだけ重くなってしまうということだ。
一方で、与圧の必要がない低空を飛ぶ小型旅客機には角断面のものもある。現在の日本では新中央航空のDo228や第一航空のDHC-6ツインオッター、過去にはもっと角張ったBN-2AアイランダーやSC-7スカイバンといった機体もあった。機内にシートを並べたり貨物を積むには、円断面よりも角断面の方が無駄がないからだ。



ただし与圧されていない飛行機にも、円断面の胴体を持つものは少なくない。全体に角がない滑らかな形にした方が空気抵抗が小さくなるからだ。

Do228やツインオッターにしても、角には丸みを持たせているし、新幹線でも高速を追求した500系は断面を円に近づけて空気抵抗を小さくしていた。

また空気抵抗は、表面積が小さいほど小さくなる。そして同じ容積ならば、角断面よりも円断面の方が表面積を小さくできる。たとえば1㎡の断面積になる正方形と円を比較してみると、正方形は1辺1mだから周囲の長さは合計4mになる。それに対して面積1㎡の円の円周は(小学校で習う円の面積や円周の式から)約3.5mと計算できる。
つまり円断面は角断面よりも約一割は表面積を小さくできる。飛行機ならば、それだけ外板や骨組みが少なくて済むということで、重量も軽くできる。

一方で円断面の胴体には、無駄なスペースが多くなるという欠点がある。シートを置くために床を張れば床下には空間ができやすく、天井裏も同様だ。しかし、これは本当に欠点なのだろうか。
旅客機の胴体には、シートの他にもさまざまな機器や配管、配線などを収める必要がある。ランディングギアを格納したり、左右の主翼と胴体をつなぐためのスペースも必要だ。そして角断面のDo228は、メインギアを格納するために左右に張り出し(スポンソン)を設なくてはならなかったし、主翼は胴体の上に載せるような配置とした。
これらはそれぞれ空気抵抗になるだろうから、最初から胴体を丸断面として「無駄なスペース」に収めるようにした方がよかったかもしれない。もちろん設計者もそうしたことまで考慮したうえで、角断面を採用したのだろう。
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