連載
飛行機は雷を受けても大丈夫? さまざまな電気対策 ~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。

雷がものすごい光や音を発するのは、空気が電気を通しにくいからだ。電位差が限界を超えて大きくなれば無理に電気は流れてしまうが、かなり強引なのでそこの空気は高温になって強烈な光を発すると共に急膨張して雷鳴を響かせる。
もし電気を流しやすい素材ならば、電気はすんなりと通りすぎるだけだったろう。金属でできた旅客機や自動車が雷を受けても大丈夫といわれるのも、電気を流しやすいためだ。
787やA350で使われているCFRP(炭素繊維強化プラスチック)は金属よりも電気を流しにくいが、これらは金属のシートやメッシュの層を設けることで電気を流しやすくしている。

ただし機首のレドームは導電性を持たせるとレーダーの電波が通らなくなってしまうため、ここは電気を流しにくいGFRP(ガラス繊維強化プラスチック)で作られている。

そのため被雷すると大きなダメージを受ける危険があるが、レーダーの電波にできるだけ影響しないように電気を逃がすための帯(ライトニングストリップあるいはダイバーターストリップなどという)が取り付けられている。

これらはレドームの表面に線として見えることが多いが、新しいA320やA350はレドームの内側につけているので表面は滑らかである。

なお電気を流しやすい場所に被雷したとしても、まったく無傷とはいかない場合もある。なにしろ雷によって熱せられた空気の温度は1万~3万℃にも達する。これは太陽の表面温度(約6,000℃)の数倍という熱さだ。そんなものが瞬間的にでもタッチするのだから、被雷した旅客機は特に雷の入口と出口の異常がないことをしっかりと点検する必要がある。
ちなみに筆者の知人は車(2代目ジープ・チェロキーXJ)で高速道路を走行中に雷に直撃されたことがある。しかし感電することもなく、車にも異常はなく、塗装がはげたりすることもなかったそうだ。今の車のように電気・電子機器が多いと、もう少し影響が出やすいかもしれないが。

飛行機の電気対策といえば、翼の先端近くなどについているスタティックディスチャージャー(放電索)もある。
飛行機が飛ぶと空気中のチリや雨などとの摩擦により静電気が発生する。こすった下敷きで髪の毛が逆立つのと同じ理屈だが、飛行機は速いから目に見えないようなチリとの摩擦でも静電気が発生する。その量(電荷)がある程度大きくなると翼端のようにとがったところから空気中に放電されるが、そのときに発生するノイズが無線機や電子機器などに影響をおよぼす可能性がある。
そこで放電索をつけることで、おだやかに静電気を空中に逃がすようにしているのである。ときどきこれを避雷針と誤解している人もいるが、それは間違いだ。

ちなみにスタティックディスチャージャーを日本語では放電索と呼ぶが、それは低速のプロペラ機ではケーブルのように束ねた線が使われているからだ。高速で飛ぶ現代のジェット旅客機では棒のような形をしている。

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