連載
飛行機の対気速度を測るカギは「風」 ~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。

自動車の速度は、タイヤの回転数から測ることができる。しかし飛行機は飛んでしまえばタイヤも回らないので、この方法は使えない。そこで、受ける風の圧力から速度を測っている。要は、風速計である。
この方法では、飛行機が停止していても正面から風が吹いていれば速度計が動いてしまうが、それでかまわない。速度計をつけるのは、自動車ならば法定速度や制限速度を超えないように走ることが大きな目的だろう。しかし飛行機では、翼のまわりの風の状態を知ることが主たる目的だ。
どのくらいの速度なら安全に離陸できるか、失速してしまわないか、あるいは機体に無理な力がかかることはないかといったことは、いずれも受ける風の速さ(対気速度)と関係している。だから風の速度を測るというのは合理的なのである。

では、どのように風の速さを測るか。よく見るお碗型の風速計では、飛行機にとって大切な前方からの風速だけを測れない。そこで初期の飛行機には、風を受ける板の傾きで速度を測るものもあった。あるいはプロペラ式の風速計もありうるが、現代の旅客機ではピトー管を使うのが一般的だ。

旅客機の機首付近にはL字型の装置が突き出しているのが見えるが、これがピトー管だ。前方に向けた先端には穴が開いており、ここで風の圧力を受ける。L字型をしているのは、胴体の影響を受けにくいように離れた場所の圧力を測るためだ。
ジェット戦闘機には、機首先端にまっすぐにピトー管を突き出しているものも多い。ここで受ける圧力が高いほど速度も速いということだから、その圧力の変化を速度の変化として表示してやればよさそうだが、実際にはそれだけではすまない。

ピトー管で受ける空気の圧力は全圧といって、前進することによる圧力(これを動圧という)と、その場所の大気圧(静圧)を合わせたものになる。このうち静圧は高度や天気によって変わってしまうから、そのままでは全圧も増減してしまう。
その影響をなくすために、たとえば仕切りのある容器の一方をピトー管につなぎ、もう一方を静圧孔(スタティックポート)につないでやる。飛行機が停止しているときには容器のどちら側も静圧で同じだから中の仕切りに力は働かない。しかし飛行機が動き出すとピトー管からの圧力が高まって仕切りを押すことになる。その力(あるいは仕切りの動き)を測ってやれば、静圧の変化に影響されずに動圧がわかり、それを速度として表示できるようになる。

ちなみに雨の中を飛べばピトー管にも雨水が入ってしまうし、気温が低ければ水分が凍って穴を塞いでしまう危険がある。そこでピトー管には雨水の影響を受けないような仕組みや、氷がつかないようにするヒーターなどを装備し、さらに旅客機の場合には複数を装備して安全性を高めている。


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