ニュース

第3滑走路供用で成田貨物ハブ再興を! 国内初の貨物上屋・物流一体街区をJALとヒューリックが共同運営

JALとヒューリックが成田空港近郊で、貨物上屋と物流施設を一体化した「WING NRT」を共同運営する計画を発表。空港外の保税蔵置所と、国際物流のプレイヤーが一堂に会する物流施設の一体運用で、かつて世界ナンバーワンの貨物取り扱い量を誇った国際貨物拠点としての成田空港を取り戻す!

文:本誌編集部 写真:本誌編集部
X Facebook LINE
WING NRTの共同運営について説明した、ヒューリック専務執行役員の黒部三樹氏(左)と、JAL貨物郵便本部 事業推進部 部長の梅原英彦氏(右)。
「WING NRT」のイメージ図。上屋棟と、2~3棟の物流棟、従業員や地域の住民向けのアメニティを揃えた共用棟から成る街区が生まれる予定だ。

 JALとヒューリックは7月15日、成田市下福田地区において、航空上屋施設(保税蔵置場)と物流施設を一体化した国内初の国際物流拠点「WING NRT(Worldwide-cargo INnovation Gate Narita)」の運営を共同で進めることを発表した。

 この施設は、ヒューリックが2023年8月に開発を発表していたもので、成田空港の第3滑走路供用開始に間に合わせるべく2029年3月までの竣工を予定している。

 施設は延べ床面積約15万m2の貨物上屋1棟と、同約30万m2の物流施設2棟または3棟で構成。上屋棟と物流棟を同一街区内に設置することによるメリットを活かした運用を目指している。

北千葉道路の延伸により成田空港とは約10分で結ばれる。移動のハードルは低く、かつ、空港外施設であることのコストメリットを活かす。

 同施設の開発予定地である成田市下福田地区と成田空港の間は、現在は車で約15~16分程度。しかしながら、現在進められている北千葉道路の延伸事業により、2029年3月には押畑IC~成田IC間が開通予定で、これにより約10分に短縮される見込み。さらに大型車規制がかかっている街区へのアクセス道路となる県道成田安食線は、施設開業前までにこの規制が解除される見通しだという。

 2025年1月に造成工事に着手し、2027年には造成の見通し。その後、同じく2年間の工期で施設の建設が進められ、2029年3月までのオープンを目指すことになる。ヒューリック 専務執行役員の黒部三樹氏は、「2023年8月の発表時点では都市計画や開発計画の見通しが立っていなかったが、造成工事は予定どおり。その後の建築工事も約2年を想定しているので、現在は予定どおりに進捗している」と説明。投資額は公表していないが「軽く1,000億円を超える規模」(同氏)としている。

 なお、このWING NRTはヒューリックとJALが一体的にオペレーションできるよう、共同で運営会社を立ち上げる予定だ。現在はビジネスモデルの検討などに着手したところで、出資比率や設立時期などは今後、順次決められていくことになる。

ヒューリック株式会社 専務執行役員 黒部三樹氏。

日本の物流に危機感。JALの貨物郵便事業の持続性にも影響

 このWING NRTを共同運営するJAL。同社の成田空港における貨物上屋は6か所に分散しており、効率の面でも課題があるほか、最大規模となる延べ床面積52,400m2の日航貨物ビルは運用開始が1978年と、間もなく50年に達しようかという長きにわたって使われている施設となる。そのほかも第1貨物ビル(同じく1978年運用開始)、第3貨物ビル(1984年運用開始)など老朽化が課題となっている。

 JAL貨物郵便本部 事業推進部の梅原英彦 部長は、「新しく建設される貨物上屋には新しいテクノロジーが入る一方で、50歳を迎えようかというビルをリニューアルしようと思っても限界がある。人手不足が叫ばれるなか、6か所に分かれている点で、事業のサステナビリティにも危機感があった」と、ヒューリックが開発する施設に着目した理由を説明。

 また、WING NRTは第3滑走路の供用を含む「新しい成田空港構想」から生まれたものだが、「このような構想が生まれた理由は、日本の経済的地位の低下にほかならない。海運の世界では日本を避ける抜港という事態が起きており、これを空の世界で繰り返してはならないと危機感を持っている。かつて世界ナンバーワンの貨物取り扱い量だった成田空港は昨年の世界ランキングでは15位。これをなんとか盛り返さないと日本の物流のサプライチェーンが危うくなる。そこでNAA(成田国際空港)さんや国土交通省さんが成田空港をもう一度強くするんだ、と提唱されている。JALとしても思いは一つ」と述べ、貨物上屋と物流施設が一体化したWING NRTを国際物流拠点とし、ここに国際航空物流の関係各者が集結するような場を目指す意気込みを示している。

日本航空株式会社 貨物郵便本部 事業推進部 部長 梅原英彦氏。

 WING NRTの運用としては、成田空港で取り扱われる貨物を、保税貨物としてWING NRTへ輸送。WING NRT内の貨物上屋で荷捌きし、物流業者への受け渡しまでが街区内で完結するイメージとなる。先述のとおり北千葉道路延伸のおかげで成田市街地を経由することなく短時間で輸送でき、かつ空港外ということで物流業者にとってもコストを抑えられることがメリットとなる。

 ただし検疫については、輸出検疫についてはこれまでも空港外の上屋で実施している実績があるが、輸入検疫については前例がなく、対応できるよう関係当局に働きかけていきたいとしている。

 ちなみに、空港内の貨物上屋についても、再編を計画している。まだ規模感などは具体化していないが、空港内上屋でしか取り扱えない貨物もあるため、一定規模の上屋は保有する計画だ。新しい成田空港構想においては、第3滑走路付近への新たな貨物地区建設も計画されており、そちらへの移転も予定しているという。

 とはいえ、WING NRTについては「既存施設に新しいものを入れるのは限界があるが、更地からすべて作るのも難しい。WING NRTは我々が欲しいものを入れたうえで作ることができる」という点もメリットとして挙げている。

JALとヒューリックが成田空港近郊で、貨物上屋と物流施設を一体化した「WING NRT」を共同運営する計画を発表。空港外の保税蔵置所と、国際物流のプレイヤーが一堂に会する物流施設の一体運用で、かつて世界ナンバーワンの貨物取り扱い量を誇った国際貨物拠点としての成田空港を取り戻す!

関連キーワードもチェック!