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ANA ボーイング767を追い求めて。 撮影者とキュレーターが紡ぐ、アート写真としてのヒコーキ 〜正宗浩氏 第2回目写真展 「未完 -second chapter-」 訪問〜

月刊エアライン4月号「ヒコーキ写真テクニック」特集で盛り上がるヒコーキ写真の世界。
読者の皆さんの中には、ヒコーキの写真展に足を運んでみようと思った方も少なくないのではないだろうか?
3月13日から16日まで、名古屋のGallery White Cubeで開催された正宗浩氏による第2回目の写真展 「未完 -second chapter-」 を訪問したので、その模様をお伝えしよう。

文:原 健一 写真:原 健一
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今回の写真展の一週間前に撮影され、展示に間に合わせたという大分空港沖での一枚。急なランウェイチェンジのため、船が撮影ポイントに到着したのはシャッターを切るわずか数秒前。幸運なことに船が発した波が海面に美しいアンジュレーションを奏で、作品に大きな抑揚を与えた。

「キケン」なふたりが紡ぐ写真展、作品表現の世界観

 このふたり、キケンである。もちろん褒め言葉としての「キケン」なふたりなのだ。

 最初に写真展の会場に足を踏み入れた瞬間にそういう香りを感じ取ってしまったあたり、もしかすると私もキケンなのかもしれない。そもそも「正宗浩」氏の写真展でなぜ「ふたり」という表現を使うのか、そこには深い訳がある。

 まずは今回写真展を開催した正宗浩氏についてである。ANAのボーイング767に特化した撮影を行なっており、トリトンブルーの767が就航する空港では陸海空あらゆる場所から作品作りを行なうというエンスージアストである。つまり正宗氏は今回の写真展における主役「撮影者」となる。

 そして「キュレーター」として紹介されたのが岡本浩孝氏である。この名前を聞いて「おっ!」と思う方はきっと写真通に違いない。CP+2025ではSIGMAなどのステージにも立った第一線で活躍するフォトグラファーであり、クオリティの高さで定評のある株式会社岡本印刷の代表でもある。

 そんなふたりが出会ったのは3年前に友人を介してのこと。この出会いが今回の写真展へと繋がっていったのであるが、「キュレーター」を直訳すれば「学芸員」となり、岡本氏本人にも訊いたところ印刷や展示などを総合的に演出する役割だという。
 インタビュー時の2ショット写真からも年齢を越えた信頼関係と仲の良さが伝わってくる。

 このふたりがタッグを組んで送り出してきた写真展が「未完」シリーズとなるのである。

こちらがキケンなふたり。向かって右から正宗浩氏、岡本浩孝氏。年齢差は実に30歳近くあるのだが、2度の写真展を通じて紡ぎ上げてきたコンビネーションは抜群だ。

作品展示におけるプリントの重要性

 岡本氏は、「たまたま写り込んだ以外には、自らヒコーキ写真を撮ろうと思って撮影したことはないんだよね」と屈託なく笑う。ふたりが目指すのは、あくまでもヒコーキというカテゴリーだけにはとらわれない、純粋なプリント作品としてのクオリティである。

 正宗氏も「昨年の銀座での写真展の経験から、今回はどのようにしたら良いのか具体的なビジョンが見えていた」のだと語る。

 一方の岡本氏も「正宗氏との写真展をきっかけに、プリントに対する考えがさらに深化した」という。まさしく、「ふたりで足りない部分を補いながら前進する写真展」なのである。

シックな壁面に浮かび上がる作品たち。できるだけ世界観に浸ってほしいとの希望で、椅子が一脚置かれていた。向かって左側の6枚はピクトリコGEKKOレッドラベルプラスという現在絶版となった貴重な用紙で印刷。プリント自体が輝きを放っているような美しさを感じた。

「プリント」という形で世に出すのであれば、最高の形で実現したい。

 今回の写真展にあたっては開催の直前まで撮影に奔走し、アイコニック作品となった大分空港沖合での作品が撮影されたのは、なんと一週間前! そして、その作品をA0サイズ(841mm × 1189mm)という巨大なサイズにプリントして会期に間に合わせたというのだから、ふたりのプリントへのこだわりと熱意を感じずにはいられない。

 また、正宗氏がセスナから撮影した全国各地の空港での空撮写真は圧巻の一言。自ら各地のセスナ運航会社と交渉し撮影を行なったとのことで、その行動力が産み出した数々の作品はまさに珠玉の名作と言えよう。これらの作品を全て紹介したいところではあるが、それは次回写真展の楽しみとして取っておいていただきたい。

 また、ギャラリートークでは写真を印刷することの大切さも語られた。
 「ご自宅であればA4サイズでもいいので印刷をして、壁にピンナップとして飾ってみてください。印刷用紙にはさまざまな種類があるので、撮影も、印刷も失敗して研究して、気に入った用紙にビシッと合うような作品を残せるようになると、写真はさらに楽しくなるはずです」と岡本氏。

 撮影する者とプリントする者、ふたりが同じ気持ちで発する言葉には説得力がある。

岡本氏が絶賛する宮崎空港での空撮の一枚。セスナ機は一点にとどまることができないため、一瞬の判断が重要。「心情的にはアップで撮影したいところを、背景となる美しい海面を冷静にしっかり残して撮影していることを評価したい」と岡本氏。

はたして「未完」は、いつまで未完なのだろうか?

 インタビューでは次なる「未完」についても伺ってみた。

 もちろん、-chapter 3-への期待も高まるところではあるが、次の3.0へ上がっていくにはさらに大きな変化も必要になるとのことで、次は-chapter2.5-を目標に、前に進んでいくとのことだ。

 ふたりで目指す終わりなきヒコーキ写真の旅「未完」。次の進化がすでに始まっているようだ。次回も期待したい。

2回のギャラリートークも開催されたこの日、会場には絶えず人々が訪れ熱気に満ちていた。とりわけA0サイズの作品の迫力を前に、しばし動きが止まる人が続出した。

正宗 浩
2000年 宮城県生まれ
幼少期より父親の影響で飛行機に興味を持つ。
2021年より地方空港においてヘリやセスナを用いた空撮を開始。
ANAのボーイング767に心を惹かれ、同機が就航する空港での撮影に情熱を傾ける。
Instagramも要チェック。

岡本浩孝
1971年 愛知県生まれ
学生時代、フライフィッシングを通じて出会った美しい渓魚と美しい景色を写真におさめたいとの想いからカメラの道へ。現在、自動車カスタマイズメーカーのプロモーション撮影などの広告写真を手がけながら、自らの作品作りのため世界のフィールドへと足をはこぶ。
株式会社岡本印刷 代表取締役
SONYイメージングプロサポート会員
SONYαアカデミー講師
SIGMAプロフェッショナルサービスマスター 他
プリントの相談などは岡本氏の公式Xまたは Instagramにて。

月刊エアライン4月号「ヒコーキ写真テクニック」特集で盛り上がるヒコーキ写真の世界。 読者の皆さんの中には、ヒコーキの写真展に足を運んでみようと思った方も少なくないのではないだろうか? 3月13日から16日まで、名古屋のGallery White Cubeで開催された正宗浩氏による第2回目の写真展 「未完 -second chapter-」 を訪問したので、その模様をお伝えしよう。

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