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地元の熱意が生んだANAの石垣路線。支店長に訊く、その現在
2024年に就航35周年を迎えたANAグループの石垣路線。東京直行便の開設や、九州、関西、中部エリアへの路線展開、新石垣空港への移管と中・大型機への機材変更など、さまざまな流れを経て現在に至っている。元々は地元からの誘致で実現した同路線の現状を、ANAの石垣八重山支店長に訊いた。
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石垣・八重山地区に対する感謝の思い
現状をうかがう前の前提として、木下氏の肩書きは「全日本空輸株式会社 石垣八重山支店長 兼 ANAあきんど株式会社 石垣八重山支店長」である。各地域では航空機の受け入れや出発を管理する業務もあるが、それは空港支店長の役割であり、石垣空港でも空港所長がその任務を担っている。では、「石垣八重山支店長」のミッションとはどのようなものなのだろうか。
「1番大きなミッションは地元への感謝をお伝えすることです。そのために飛行機をしっかり飛ばし、地域の課題に対してANAグループの商材で対応します」
最初に飛び出した「感謝」という言葉。これにはANAの石垣路線の歴史が大きく関係している。ANAの石垣路線は、約35年前の1989年に当時のエアーニッポン(ANK)が開設した那覇=石垣線で幕を開くが、これは地元の誘致活動によって実現したといえるものだった。
石垣路線は元々、南西航空が単独で運航している路線だった。この寡占状態に対して、地元の有志からANAの誘致活動が起こった。署名は島の人口の4分の1ほどになるという1万名を超えたという。
さらに、就航にあたっては課題もあった。当時のターミナルビルには新規の航空会社を受け入れる余地がなかったのだ。それも地元で隣接地の使用を調整。航空会社が自身でターミナルビルを建設、運営する形で就航にこぎつけた。実際、2013年まで使用された旧石垣空港では、ANAの出発ターミナルが異なる建物となっていたことを記憶している読者も多いと思うが、こうした背景があったのである。
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実際、当時の月刊エアラインの誌面を見ると、「ダブルトラッキング実現! 歓迎 エアーニッポン 初便就航 全日空 友の会」の横断幕を掲げて初便を出迎えており、地元からの歓迎ムードを感じとることができる。
「エアーニッポンで30年史を制作する際に、誘致に携わってくださった瀬戸 静さんに寄稿していただいたのですが、『今日もエアーニッポンの飛行機が安全運航できますように、と東の空にお祈りして私の1日が始まる』というお話がありました。ANAが石垣に就航できているのは、地元の方の熱い思いと、苦難のなかでも応援してくださった歴史的な経緯があってのことです。だからこそ地元を向いて、感謝の気持ちでお応えしたいと思っています」
そのためにANAでは、西表島の自然・文化を守る西表財団へのグループ社員の派遣や、ビーチクリーン運動などに積極的に参加しているほか、2024年には映画館のない石垣島で映画の上映会を行なうなど、地元自治体への社会貢献活動を展開している。
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堅調な石垣路線。787や777-200を強みに。
もちろん、ANAの中心事業である航空事業においても、石垣路線を安定的に運航することが地元への貢献につながる。
「石垣・八重山地区は、周辺人口に対する利用者の割合が40倍以上と、非常に誘客力に優れた地域です。年間で見ると利用率は東京(羽田)線で8割を超えますし、関西線や中部線も75%ほどです。また、プレジャー需要が強いのは事実ですが、個人のお客さまが若干減る時期には修学旅行が入るなど、季節変動が大きくないのも特徴です」
ANAの石垣路線は、羽田線がボーイング777-200や787が中心で、需要が落ちる時期でも767と、ほぼ年間をとおして中型機で運航されている。それでいて8割という利用率は、このエリアへの高い需要を感じさせる。
また、ボーイング777-200や787は、国内線仕様でも機内エンターテインメント(IFE)が充実しており、シートモニターを備えた機材も多い。羽田発で3時間超、石垣発で3時間弱という長距離フライトとなるだけに、こうしたIFEのプログラムが充実しているのは大きな魅力だろう。
このほか、2024年10月27日からANAの石垣路線には新たに宮古線が加わった。この路線の意義について、木下氏は次のように語る。
「ANA便は午前の早い時間帯に運航しています。沖縄地区特有の課題ですが、石垣島の方が宮古島に午前中の用事がある場合には前日に行って宿泊するか、那覇経由で行くしかなかったのです。学校の部活などでも地区大会に飛行機を利用しなければいけません。そうした地元の方の利便性は向上するのではないかと思います」
従前よりRAC(琉球エアーコミューター)が50席のDHC-8-400CCで1日2往復を運航していたが、新しい時間帯に運航することで利便性を訴求するというわけだ。
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ちなみに、このANAの石垣=宮古線には、ボーイング737-800が使われているが、朝の時間帯に運航することで機材の稼働効率がよくなるという効果もあるそうだ。とはいえ、片道で1日100席の供給だった路線に、166席のボーイング737-800を投入し、路線全体の座席供給量は一気に2.5倍になった格好だ。それだけに、新たな需要の創出は欠かせないと述べる。
「石垣・八重山の島々に加えて、宮古島を含めた周遊に期待しています。これまでANA便で両エリアをまわるには那覇を経由する必要がありましたが、宮古島、石垣島のどちらからも本州へ出入りでき、柔軟なツアーを組むことができるようになります」
石垣・八重山地域には石垣島のほか、マングローブ林が広がる西表島とそこから水牛車で渡れる由布島、昔ながらの民家が建ち並ぶことで知られる竹富島、ドラマにもなって有名となった小浜島、最西端の与那国島などなど、多くの島が存在し、石垣島から船でアクセスできる。
「マリンレジャーが盛んなリゾート地のイメージが強いかも知れませんが、沖縄県で一番高い山は石垣島にありトレッキングも楽しめます。グルメも海の幸はもちろん、石垣牛も全国区になっていますし、二期作ができることから夏には石垣産の早場米が流通します。島それぞれに個性もあり、いろいろな楽しみ方ができるエリアだと思います」
のんびり過ごすにも、アクティブにも過ごすにも、食を楽しむにもうってつけという石垣・八重山エリア。さらに木下支店長は次の注目エリアとして平久保エリアを挙げた。
「石垣島は南部に人が集中していますが、北端の平久保岬も見どころです。現在もグランピング施設やペンションなどがありますが、あまり大規模には開発されていません。海はきれいですし、注目しているエリアです」
就航から35年を超え、ますますの利便性向上とエリアの魅力訴求を図るANAの石垣路線。先述した石垣=宮古線を用いたツアーの登場など、新たな展開も見込まれる。もちろん、高需要を背景にした機材繰りも気になるところで、今後の動向にも注目していきたい。
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