特集/本誌より

JAL A350-1000、ロサンゼルス就航に向けた整備長の羽田OJTに密着!

ぞくぞくと就航路線が拡大しているJALの国際線フラッグシップ、エアバスA350-1000は6月30日から羽田=ロサンゼルス線にも投入される予定だ。もちろん、そのためには現地での整備体制も構築する必要があり、路線投入を前にJALロサンゼルス空港所の整備長、禹 鐘雄さんが羽田空港での実地訓練に臨んだ!

文:阿施光南 写真:阿施光南
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日本航空 ロサンゼルス空港所
エアポートオペレーションズ(整備)
整備長 禹 鐘雄(ウ・ジョンウン)さん

2007年にJALエンジニアリングの前身であるJAL航空機整備東京に入社。2012年に737の一等航空整備士の資格を取得し、翌13年にはライン確認主任者資格を取得。間接部門での支店サポートや、5年間のセントレア勤務などを経ながら、787、777、A350の資格も取得した。2023年4月にサンフランシスコ、同年12月にロサンゼルス空港所に赴任してJAL国際線の運航を支える。

ロサンゼルス就航を2週間前に控えた、羽田空港でのOJT

 JALは6月30日から、羽田=ロサンゼルス線(JL016/15便)にA350-1000を投入する。その約2週間前というタイミングで、ロサンゼルス駐在の禹 鐘雄 整備士がOJT(実地訓練)のために一時帰国した。月刊エアライン7月号JAL特集のロサンゼルス取材でもご紹介した、ロサンゼルス空港所の整備長である。

パリからのJAL46便として羽田空港に到着したA350-1000(JA02WJ)。約2時間後には、ニューヨーク行きJL04便として出発する。

A350-1000に投入されたシートやIFEへの慣熟も重要

 旅客機を出発させるには、国家資格である一等航空整備士に加えて、ライン確認主任者資格を持つ整備士の署名が必要だ。一等航空整備士には機種ごとの限定があり、禹さんはすでに737、787、777、そしてA350の限定を取得している。つまりロサンゼルスにおけるA350の出発確認も、すでに行なえる資格を持っているのだ。

 ただし禹さんは、JALがA350-1000を国際線に就航させる直前の2023年12月にサンフランシスコに赴任し、その8か月後にはロサンゼルスに整備長として配属された。いずれの空港への路線も777や787で運航されていたため、とりわけ国際線仕様のA350-1000に導入されたシートやIFE(機内エンターテイメントシステム)については触れる機会がなかった。そこで羽田空港において3日間にわたるOJTを受けることになったのである。

アメリカ駐在も3年目となり、久しぶりに触れることとなるA350の作業手順を再確認していく禹さん。またロサンゼルスのスタッフのために、整備以外の作業についても確認していく。
エンジンへの潤滑油の補充作業。国際線用のA350-1000には、国内線用のA350-900が装備するTrent XWB-84よりも推力が大きいTrent XWB-97が装備されている。
胴体の長さとともにA350-1000の大きな特徴である6輪ボギーのメインギア。タイヤの数が増えているだけでなく、タイヤ同士の間隔などもA350-900とは変わっている。

自らのスキルアップだけではない、JALロサンゼルス空港所としての重要なミッション

 また禹さんには、OJTを通して自らのスキルを高めるだけでなく、ロサンゼルス線においてA350-1000を円滑に受け入れられるよう準備をするというミッションもある。そのためにはOJTで得た知見をロサンゼルスの同僚整備士や、現地で作業を委託しているアメリカン航空の整備士、さらには貨物の搭降載や機内クリーニング、ケータリング、給油などを行なうグランドスタッフとしっかりと共有していかなくてはならない。

 OJTの対象となるJA02WJは、JL46便としてパリから到着する。この機体がニューヨーク行きJL04便として出発するまでの約2時間が実機に触れるチャンスだ。スポットで到着を見守った禹さんは、エンジン停止を待って外部点検を開始した。

 A350-1000は胴体が長く、メインギアのタイヤが1脚あたり4本から6本に増えているなどといった違いはあるが、A350-900に慣れ親しんだ禹さんにとっては大きな違いではない。しかしロサンゼルスで待つ現地スタッフにとっては初めての機種であるため、777や787との違いや注意点、アクセスパネルや作業の様子なども撮影していく。

乗客全員が降機したあと、機内に入る。ターンアラウンドは2時間足らずで、機内で作業できる時間は1時間半に満たない。文字通り1分1秒を争う忙しさだ。
コクピットでは、ディスプレイに整備用の情報を呼び出して、機体の状況を確認する。導入当初と比べるとタッチパネルの装備など、さまざまな機能がつけ加えられている。
OJTインストラクターの野村博俊さんは、これまでのキャビンシステムの不具合発生の傾向やその対処方法などを熟知した、A350の生き字引のような整備士だという。
CA用のコントロールパネルでIFEの操作などについて確認する。機内Wi-Fiやインターネット接続のための衛星通信などもここでコントロールできる。
特に長距離路線でのIFE不調は大きなサービス低下へとつながる。原因はハードかソフトか、そのリカバリーはどうすればいいか、短時間での判断と対応が求められる。
機内清掃をするスタッフにも声をかけて動画を撮影させてもらう。これもロサンゼルスのクリーニングスタッフに説明するための参考資料として使われる。

A350に精通したインストラクターの指導は、本拠地・羽田でのOJTだからこそ

 乗客の降機が終わると機内に入り、まずはコクピットのディスプレイに整備用の情報画面を出して機体の状況を確認。続いてOJTインストラクターの野村博俊さんとともにキャビンをまわる。

 JALのA350-1000も国際線投入から1年半を経て、整備部門は不具合の傾向やその対策について多くの経験を蓄積している。野村インストラクターはそうした事例を資料としてまとめ、社内で共有している。もちろん禹さんも事前にそうした資料を読み込んできたが、野村さんとともに実地で確認していくことで、より確実な知識とすることができる。

 ちなみにJALのロサンゼルス空港所には禹さんを含めて3名の整備士がいるが、それぞれニューヨークやダラスなど、すでにJALのA350-1000が就航している米国内の空港で同様のOJTを受けてきた。

 ただし、同じライン整備といっても、JALの整備拠点である羽田空港と就航先の空港とでは整備の内容なども違ってくる。そこで整備士たちは各空港で学んだことを共有し、万全の態勢でA350-1000の就航に備えているのである。

乗客のボーディング開始前には再びエプロンに降りて、出発前の最終確認を行なう。GPU(外部電源)の取り外しや各パネルの確実な閉鎖と固定などを確認していく。
同僚整備士やグランドハンドリングスタッフからも、A350-1000について気づいたことなどを積極的に聞いていく。ちょっとしたことであっても、貴重なノウハウだ。
主にボーイング機を扱ってきたアメリカン航空の整備士やグランドハンドリングスタッフに、A350ならではのポイントを説明するための画像や動画を撮っていく。
パリから到着して、わずか2時間ほどで今度はニューヨークに向けて出発するA350-1000。6月30日からは、5番目の路線として羽田=ロサンゼルス線にも就航する。
ぞくぞくと就航路線が拡大しているJALの国際線フラッグシップ、エアバスA350-1000は6月30日から羽田=ロサンゼルス線にも投入される予定だ。もちろん、そのためには現地での整備体制も構築する必要があり、路線投入を前にJALロサンゼルス空港所の整備長、禹 鐘雄さんが羽田空港での実地訓練に臨んだ!

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