特集/本誌より

新空港オープンから6年。かつてのトルコの玄関口 イスタンブール・アタテュルク空港のいま

トルコ最大の都市、イスタンブールの玄関口といえば、以前はヨーロッパ側の市内に近いアタテュルク空港だった。2018年、巨大な新空港にその地位を奪われた、かつてのターキッシュ エアラインズのハブ。6年後の現在の姿を見に、現地へ向かった。

文:ウォレンス雄太(本誌編集部) 写真:ウォレンス雄太(特記以外)
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2016年撮影の旅客ターミナル(上)と、現在の姿。もうこの施設を利用する発着機はないが、ボーディングブリッジ(PBB)などはそのままだ。
2016 Photo:Kashiwa Hiroyuki

トルコ建国の父の名が冠された空港

 トルコ最大の都市、イスタンブール。街の東側がアジア、西側がヨーロッパと大陸を縦断する街で、異なる表情を見せる旧市街と新市街がある。坂が多く、マルマラ海に面した港街という側面も相まって、美しく魅力的な都市だ。

 そんなイスタンブールには、3つの空港がある。ターキッシュ エアラインズがハブを置き、市の北西約40kmに位置するメインの玄関口であるイスタンブール空港(以下、新空港)、LCCのペガサス航空の拠点で、アジア側に位置するサビハ・ギョクチェン空港、そしてヨーロッパ側の市街に近い場所に位置するアタテュルク空港だ。このうち新空港は2018年に開港し、巨大なワンターミナルに5本の平行滑走路を擁するメガエアポートである。今後も3本の滑走路や、ターミナル、サテライトターミナルの増設が計画されるなど、さらに大きな空港に発展することが見込まれる。

2018年に開港したイスタンブール空港。巨大なワンターミナル(写真右)に加え5本の平行滑走路を持つ。さらにターキッシュ エアラインズのクルーセンターや系列のMRO企業であるターキッシュ テクニックの格納庫もある。周辺はほとんどが空き地で、今後のさらなる拡張にも十分対応可能だ。

 その新空港が開港するまでの玄関口だったのが、アタテュルク空港だ。トルコ建国の父であり、初代大統領のケマル・アタテュルク氏の名を冠したこの空港は、前述の通りヨーロッパ側の市街に近く、利便性が高かった。だがその立地ゆえに拡張が難しく、新空港と比べてはるかに小さいターミナルや3本の滑走路のみでは、今や世界で最も多くの国と地域に就航する巨大エアラインへと成長したターキッシュ エアラインズのハブ空港であり続けるには到底足りず、新空港の建設が決まったのである。余談だが、もう一方の空港に冠されたサビハ・ギョクチェン氏はトルコ初の女性飛行士であるほか、アタテュルク氏の養女でもある。

イスタンブールの玄関口として現役だったころのアタテュルク空港旅客ターミナル。PBB付きのスポットは満杯状態で、オープンスポットにも機体が並ぶなど、ハブ空港としては手狭だったことがうかがえる。2016年撮影。
Photo: Kashiwa Hiroyuki

定期便がなくなったアタテュルクも存続

 2018年10月31日に開港した新空港だが、開港後も半年ほどはトライアル期間として、一部を除くほとんどのフライトがアタテュルクに残った。旅客便の完全移転は2019年4月6日。同日午前2時過ぎのターキッシュ エアラインズTK54便(シンガポール行き)がアタテュルク発の最終便となり、そこから半日をかけ、空港の機材が高速道路をつたって一気に新空港へ移転。空港のIATAコード「IST」もこの時に新空港に引き継がれ、反対にそれまで新空港が使用していた「ISL」がアタテュルクに割り当てられた。

 旅客便がなくなった後も貨物便はアタテュルクに残っていたが、こちらも2022年2月を以って完全に移転。だがアタテュルクは閉鎖されることなく、現在もプライベートジェットの玄関口として1日数機の発着があるほか、ターキッシュ エアラインズ系のMRO企業、ターキッシュ テクニックなどの格納庫があるため、整備目的の機体も時おり飛来する。また、基地を設けるトルコ空軍が訓練フライトなどに使用するほか、トルコ政府専用機も発着している。

わずか1時間ほどの滞在中に6機が発着するなど、市内に最も近いアタテュルクは今もプライベートジェットに重宝される。
新空港にも格納庫を持つターキッシュ テクニックだが、アタテュルクの拠点も引き続き稼働しており、ターキッシュ エアラインズをはじめとする各社の機体が整備目的で飛来する。

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平行滑走路2本は跡形もなく…かつての撮影の名所から見た現在のアタテュルク

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