特集/本誌より

珍しいエアラインにハイブリッド塗装も。夏のヨーロッパに出現する変わったヒコーキたち

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【SmartLynx Malta A321(9H-SLC)】
人気の旅行先のひとつであるトルコの航空会社も、さまざまなリース機を駆使して需要に応える。写真の機体は登録記号がマルタ籍の「9H」である一方、タイトルはトルコ航空傘下のアナドルジェット(現・AJet)。2023年から同社にリースされているが、運航は機体を保有するスマートリンクス・マルタが担当している。

季節によって拠点とする大陸を変える機体も

 リース機はほとんどの場合、ACMI(機体、整備、乗員、保険)つきで貸し出される。機内はほとんどがオールエコノミーで、LCC並みの狭い座席配置の仕様が多い。これらの機体は夏の繁忙期以外、他の季節にはどうしているかと言うと、例えば冬はオーストリアのインスブルックなどのスキーリゾートへのチャーター便があるほか、寒いヨーロッパ北部の冬から逃れられる温暖な南部の地中海周辺への需要もある。

 しかし夏と比べると便数や路線数は格段に少なく、機体のリース元のエアラインはカナダなど他の地域の国へ機体を貸すこともある。夏はヨーロッパのチャーターエアラインで飛び、冬はカナダからカリブ海へのチャーター便に充当されるといった、渡り鳥のような活躍をしているシップもあるのが面白い。

【Sunwing Airlines Boeing 737-800(C-GBZS)】
アムステルダム空港で撮影したカナダ籍の737-800。この機体は2016年にカナダのサンウイングにデリバリーされたが、2023年より夏はヨーロッパのTUIグループで飛び、冬はカナダに戻りサンウイングで飛ぶというパターンになっていて、今年の夏はTUIフライ・ネーデルランドの便で運航中。カラーはサンウイングをベースに、タイトルを消しただけの状態である。

機体カラーのバリエーションも多様で楽しい

 借りたエアラインにしてみれば、できれば機体をフルカラーにしたいところだが、塗装には経費もかかるし、運航する期間が短い場合もある。実際にフルカラーにするものもあれば、とりあえず社名だけを描いて飛ばすもの、さらには次々といろいろなエアラインにリースされるためにオールホワイトのまま社名やロゴは一切描かないものなど、さまざまなカラーリングが存在する。アバウトと言うか、カラーリングよりも運航を優先するのだ。また、ハイブリッド塗装(2社以上のエアラインの塗装やロゴ、社名を描くこと)が出現することも多い。

【SmartWings Boeing 737-800(OK-TSO)】
ユーロウイングスのフルカラー機かと思いきや、ウイングレットのペイントがおかしい。ディープなスポッターならスマートウイングスのカラーだと分かるだろう。そもそもユーロウイングスは737を保有していないので、筆者レベルのマニアなら一瞬「新規導入したのか?」と想像してしまうところだが、これもリース機だ。同社は前述の通りワイドボディ機を他社へリースする一方、ナロウボディ機は反対に他社から借りている。この機体はUAEのフライドバイやカナダのエア・トランザットなどさまざまな会社に毎年リースされていて、ユーロウイングスでは今年4月から運航されている。
【Avion Express Malta Airbus A320(9H-MLR)】
こちらもユーロウイングスにリースされている機体だが、今度はホワイトボディに社名のみ。レジはマルタ籍の「9H」で、運航会社はアビオン・エクスプレス・マルタだ。同社は乗員込みで機体を短期リースするリトアニアの会社、アビオン・エクスプレスの子会社だ。
【Trade Air Airbus A320(9A-BTH)】
フライトレーダーを見てクロアチアのトレード・エアの便が来ると分かり撮影に行くと、ベースは同社のフルカラーだが、クロアチア航空のタイトルが大きく描かれている機体がやってきた。「Trade Air」の社名はドア横に小さく描かれているのみ。この便は名実ともにトレード・エア便だったが、機体は同じ国のクロアチア航空にリースされることもあるため、このようなデュアルタイトル(2社の社名)になっている。こういうハイブリッド塗装が撮れるとうれしい。

 また機体の登録記号は運航される国が変わっても基本的に変更しないが、一部例外もある。例えばチェコのスマートウイングスの機体で、夏はチェコ籍の「OK」レジだが、秋から春までカナダのサンウイング航空で飛ぶ際には同国籍の「C」レジに変更されるという形で、半年ごとにレジが変わる機体もあるくらいだ。ちなみにこのケースでは、「OK」レジも「C」レジも毎回同じものが使用される。

 撮影目的だと、こうした機体に出会えるのは楽しい。ハイブリッド塗装が来ればアタリであり、反対に聞いたことがないエアラインだと思って期待していると社名やロゴなしのオールホワイト機が来てしまうこともあるが、毎年夏はどんな機体、どんなエアラインに出会えるかワクワクするので、ヨーロッパでの撮影はやめられない。

【Easyjet Europe Airbus A320(OE-IBS)】
リース機ではないが、経歴が面白いので紹介したい。登録記号の「OE(オーストリア籍)」から分かるように、イージージェットがイギリスのEU離脱に伴い設立したイージージェット・ヨーロッパの機体だが、オールホワイトのベースに前方のみ社名が入った中途半端な塗装だ。実はこの機体、元バニラエアとピーチのJA07VAで、2022年10月にJAナンバーを抹消、現在はヨーロッパで活躍中。こんな再会もできるのが中古機の魅力だ。

月刊エアラインの誌面では、チャーリィ氏の欧州遠征をレポート!

今回ご紹介したリース機の数々を含め、この夏の欧州遠征で多様な機体を撮影してきたチャーリィ氏。レンタカーを借りてオランダ、ドイツ、スイス、ベルギーの4か国の空港を、3,000kmにおよぶドライブで巡った遠征の模様は、月刊エアライン9月号から3回にわたり誌面でお届けしています。こちらもぜひチェックしてみてください!

多くの人がバカンスに出かける夏のヨーロッパでは、航空需要も一気に増大する。それを少しでも取り込もうと、リゾート地への便を多く持つLCCやホリデーエアラインを中心に、各社は自前の機材のみならず、他社から機体をリースして対応する。これらの機体は珍しい航空会社のものであったり、また不思議なカラーリングであったりなど、スポッターにとって良い被写体となるとともに、運航会社やリース元などを探ってみるのも面白い。この夏、欧州各地でさまざまな機体を捉えたチャーリィ古庄氏が、こうしたリース機の魅力やその背景にある事情を解説する。

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