連載
航空機の安全性を高める工夫(2)「フェイルセーフ」 ~ 連載【月刊エアライン副読本】

【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
旅客機も機械であるから壊れたり故障することもあるが、それでも大丈夫なように作ることはできる。前回説明した多重化もそのひとつで、客室の窓も二重になっている。
飛行中の胴体は与圧のため外に膨らもうとする力を受け、それは1m四方あたり約6トンにもなる。窓の大きさでも500kgほどの力に耐えなくてはならないが、二重の窓はどちらか1枚が割れても残る1枚で耐えられるようになっている。
とはいえ機体構造のすべてが二重というわけではない。現に、二重の窓を支える胴体は1枚の板で作られている。これをすべて二重にしたら重すぎて飛べないか、飛べたとしても性能が悪くなってしまう。
そこで旅客機の胴体は、たとえ一部に穴が開いたりクラック(ヒビ)が入っても、それが致命的に広がりにくい構造にしている。
旅客機の基本構造はセミモノコックといって、縦横の骨積み(円周状のフレームと前後方向のストリンガー)に外皮(スキン)を張ったものだ。
身近なものでは提灯が似ているかもしれない。提灯は円周状のフレームとスキンの両方で荷重を分担して形を保っている。これは傘のようにフレームだけで形を保てる構造とはまるで違うものだ。
ただし提灯のまま構造では、一部が破ければそこから簡単に裂け目が広がってしまう。実際には提灯のフレームは糸で結ばれて間隔を保っているのだが、糸にはスキンが裂けるのを止めるほどの力はない。しかし糸ではなく、元のフレームと直角にストリンガーを組み合わせたらどうだろう。裂け目はそこで止まり、さらに広がることはなくなるはずだ。
このようにどこかが壊れた(fail)としても、ただちに危険な状態にならない(safe)ようにする構造をフェイルセーフ構造という。旅客機の胴体は、基本的にはそのように作られている。
ただしセミモノコック構造にすれば、それだけでフェイルセーフ構造になるわけではない。
たとえば1954年には、世界初のジェット旅客機コメットが立て続けに空中分解事故を起こした。コメットの胴体もセミモノコック構造だったが、そのフレームにはスキンに生じたクラックを止めるだけの強度がなく、スキンと共に破断してしまったのである。
先ほども書いたように、巡航中の旅客機の胴体には1m四方あたり約6トンという猛烈な力がかかっている。いわば風船のようなもので、細い針で刺しただけでも爆発的に破壊されてしまう。しかし穴が広がらないようにできれば、風船だって少しずつ空気が抜けていくだけですむ。それがフェイルセーフ構造なのである。
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