連載
正確な対地速度なくして正確な航法は実現しない ~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
飛行機の対気速度は、ピトー管で受ける風圧から測定できる。しかし地面に対する対地速度は、どうやって測ればいいのだろう。
対気速度と対地速度の差は、風によるものだ。
たとえば無風のときに速度200km/hで50km離れた場所まで飛ぶには15分かかるが、これが10分で着いてしまったとしたら対地速度は300km/hだったと計算できる(速度=距離/時間)。たぶん風速100km/hの追い風に乗っていたのだろう。地上ではこれほどの風が吹くことは滅多にないが、上空のジェット気流では珍しくない。逆に30分かかったとしたら、風速100km/hの向かい風に逆らって100km/hの対地速度しか出せていなかったのだろう。もし15分しかかからないつもりで燃料計算をしていたら、途中でガス欠になってしまっていたかもしれない。あるいはずっと洋上を飛んでいて、このあたりが目的地の島だろうと探しても、見つからずに途方に暮れるかもしれない。
対地速度は、正確な航法のために必要になるものだ。

実際には、パイロットやディスパッチャーは気象機関から提供された風のデータもとに対地速度を推測し、飛行計画を作る。そして実際の対地速度は、たとえば離陸後に距離のわかっている区間を飛ぶのにかかった時間から計算する。こうして求められるのはその区間の平均対地速度にすぎないが、区間の間隔をどんどん短くしていけばリアルタイムの対地速度に近くなっていく。
ただし問題は、その区間を正確に飛んでいることをどのように知るかということだ。正確な航法のために正確な対地速度が必要だったのに、その対地速度を知るためには正確な航法が必要になってしまうのである。

そこでもっとダイレクトに対地速度を知る方法も考え出された。たとえばドップラー航法は、地上に当てたレーダーの反射波の周波数の変化(ドップラー効果)から対地速度を求めるものだ。
また1969年に初飛行した747は、機体にかかる加速度を積分することで対地速度を求めるINS(慣性航法装置)を旅客機としては初めて標準装備した。
ちなみに速度をさらに積分すると移動距離を求めることができる。これは外部の無線局などの電波に頼らずに位置を知ることができるため、潜水艦や宇宙船などでも使われている技術だ。
時間がたつにつれて誤差が蓄積されていくというのが欠点のひとつだが、747では東京からハワイまで飛んでも2~3kmの誤差にすぎなかったという。これはせいぜい滑走路1本分の長さにすぎないし、目的地に近づけば地上の無線航法装置の電波を受信して簡単に補正することができるので実用上は問題がない。

現在ではこうした誤差の蓄積なしに世界中どこでも高精度で位置を測定できるGNSS(全地球航法衛星システム)が主流となっているが、またINSも独立した航法装置としてではなく他の航法装置を補完するIRS(慣性基準装置)として装備されているので、対地速度も簡単に測ることができる。


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