連載
変わりゆく航法(ナビゲーション)の姿 ~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。

いま自分がどこにいて、どちらに向かえばいいかを知る技術を航法(ナビゲーション)という。
現代の旅客機は、ほとんどがカーナビと同じくGPSなどのGNSS(全地球衛星航法システム)を主に、機体にかかる加速度から速度や移動距離を計算するIRS(慣性基準装置)などを併用して位置を測っている。その結果はND(ナビゲーション・ディスプレイ)に地図(チャート)の形で表示されるため、とてもわかりやすい。
しかし昔ながらの機械式計器での航法は、そうはいかない。計器の指示を読み取ったうえで、チャートと突き合わせながら位置を確認する必要がある。

GNSSが普及する以前の代表的な航法装置はVOR(VHF全方向式無線標識)だろう。
これは地上局が発射する電波を機上の受信機で捉えることで、「地上局から見た自分の方位」を知ることができる。
それに対して、さらに以前のNDB(無指向性無線標識)は「自分から見た地上局の方向」をADF(自動方向探知機)という計器で示すようになっていた。その方向に飛べばNDB地上局まで飛んで行けるというのは分かりやすいが、正しく航空路をたどって飛ぶにはVORの方が便利だ。

NDBやVORを使った航空路は、こうした地上局を結ぶように設定されている。そのコースの方位(チャートに記されている)をVORにセットしてやると、コースのどちら側にいるかが計器に示される。それがセンターにくるように飛べば、正しく航空路をたどることかできるというわけだ。

ただし、これだけでは航空路上のどの位置にいるかまではわからない。そのため地上のVOR局にはDME(距離測定装置)が併設されていることが多い。これによって地上局からの方位と距離の両方がわかるため、自分の位置を特定できる。
ちなみにこのようにVORとDMEを併設した地上局をVOR/DME(ボルデメと読む)という。これと同じように利用できるのがVOR/TAC(ボルタック)で、こちらはVORに軍用のTACAN(戦術航法装置)を組み合わせたものだ。
TACANはVOR/DMEのように地上局からの方位と距離を示すことができるが、そのうち距離測定機能については民間機でもDMEと同様に利用することができるのだ。

最近ではGNSSの普及により廃止されるVOR局も増えているが、特に民間の軽飛行機などにはGNSSに対応していない機体も多いので、当面は完全に廃止されることはないだろう。
スマホを使ったナビアプリがあることからもわかるように、GNSSの受信機は安価になってきているが、航空用ともなるとそうはいかない。しかも導入後も最新のデータを使うことが求められるので、その更新だけでも相応の費用が必要になる。

またVORが廃止されても、併設されたDMEは残される場合も多い。DMEは複数の地上局からの距離を測ることで自分の位置を知るという使い方もでき、GNSSの補完やバックアップとしても使うことができる。
ウクライナに侵攻したロシアが行なっているように、GNSSの電波は妨害されることがあるし、機器が故障することもあるから、それだけに頼るのは危険である。そのためDMEなど地上局からの電波を使った航法も、当面は必要とされ続けることだろう。

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