連載
旅客機が着陸する際、なぜタイヤから煙が出るのか ~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
旅客機が着陸するときには、タイヤから煙が出る。写真を撮る人にとっては、旅客機の重量感をダイナミックに表現できるアクセントだ。
この煙は、タイヤのゴムが溶けたものだということはよく知られている。では、なぜタイヤが溶けるのか。旅客機が重いから? 旅客機が速いから? ブレーキが強力だから? それならば着陸滑走の間はもっと長く煙が出続けていてもおかしくない。これは、もともと回っていなかったタイヤが滑走路に擦りつけられることによる摩擦熱によるものだ。
たとえば737-800のメインギアのタイヤは直径1.13m、ホイールをつけた重さは163kgだという。実際には、これにマルチディスクブレーキがつくから、1本あたり軽く200kgは超えるだろう。ベアリングで抵抗なく回転するようにしてあるとはいえ、慣性モーメント(回りにくさ、と考えてもいい)はかなり大きい。そんな物体が、接地の瞬間に地面にこすられ、着陸速度に応じたスピードに強引に高速回転させられるのである。
ちなみに737の着陸速度は250km/h程度だ。737のメインタイヤ外周は「直径×円周率」で約3.55mだから、250km/hで走行中の回転数は、毎秒約20回転と計算できる。200kg以上の重さがあるタイヤを、瞬間的にそれだけの速さに、しかも地面にこすりつけることで回転数を上げようというのだから、かなり強い力が働くということは想像がつく。表面のゴムが溶けて煙になってしまっても不思議はない。
ちなみにタイヤは、このあとブレーキによって旅客機を停めるためにも奮闘する。ジェット旅客機では、着陸前にオートブレーキをセットしておくと、接地と同時に自動的にブレーキをかけてくれるようになっている。ただし正確には接地と同時ではなく、接地してタイヤの回転数が十分にあがってからブレーキを効かせはじめる。
例えば接地前からブレーキをかけていたら、タイヤは回転せずに一部だけが磨り減ってパンクしてしまうだろう。たとえパンクしなくても、このどきタイヤは滑走路を滑っている状態なので減速するための摩擦力が小さくなっている(動摩擦係数)。そこで接地後にタイヤの回転数が上がり、路面をしっかりグリップしたところ(静摩擦係数。動摩擦係数よりも大きい)でブレーキをかけはじめるのである。
ただし、このときもあまり強くブレーキをかけるとタイヤがロックして滑り出してしまう。そこで旅客機にはアンチスキッド装置が取り付けられ、タイヤがロックしそうになるとブレーキを少しゆるめてグリップを確保し続けるように作られているのである。
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