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第3回 真夜中に駆け抜ける、もうひとつの「新幹線」? ~ AIRLINE×新幹線EX 特別企画

文:新幹線EX編集部
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九州新幹線(鹿児島ルート)でも運用されている高速確認車。山陽新幹線でも同様のタイプの確認車が使用されている。前面にはバーも設置されており、列車に接触しそうな物品があった場合、バーに接触することで検知ができる。

厳重な物品管理が求められる新幹線の軌道内

 新幹線は速い。西九州新幹線の場合、最高速度260㎞/hで駆け抜けていく。そのため、軌道内の工事や検査は、0~6時の深夜時間帯に限られている。つまり、営業列車が走っている間は、作業は一切せずに安全を担保しているのである。
 しかし、万が一軌道内に工事資材が忘れていたらどうなるだろうか。かつて鴨宮モデル線では、工事機材が軌道内に置かれた状態で高速で試験車両が衝突した事故もあった。これを営業列車でやると、大事故につながる。
 また、工具1つを軌道内に忘れただけでも、事故につながる。なにぶん、260㎞/hで走る新幹線である。ドライバー1本忘れていたとしても、風圧で巻き上げてしまい、沿線や列車に被害を与えてしまう。そのため、軌道内に入るときには、員数管理が徹底されている。われわれ「新幹線EX」で取材するときも、あらかじめ軌道内に持ち込む物品の数を申告し、軌道から退出する際に再度確認をして、忘れ物を防ぐ。さらに、万が一軌道内に物品を忘れても、最後の確認で気付くように、持込品すべてに反射テープを貼っておく。
 こうした員数管理の厳しさは、飛行機の整備現場でも徹底していると聞く。やはり高速で移動する公共交通機関の安全を守るのは、日々の積み重ねであるというのは、地上も空も同じなのだろう。

最後の砦、確認車

 こうして地上側でも厳重に物品管理をしているが、それでもまだ忘れ物が発生する可能性はゼロではない。そのため、どの新幹線(200㎞/h以上で走る区間)でも、営業列車が走る前に、「確認車」と呼ばれる保守用車を走らせて、最終チェックをしたうえで、初列車が出発する。これは作業があった翌朝は、毎日運転されているものである。
 「新幹線EX」編集部では、西九州新幹線の確認車に添乗させていただいたことがある。西九州新幹線では、高速確認車(鹿児島ルートからの転用)と、R600(新車)が運用されている。R600については、画像解析による支障物の自動検知と、自動運転に対応しており、従来は2名乗車だった確認作業が、1名で運用できるようになっているのが特徴だ。
 確認車は、軌道内作業がある月曜~金曜日の翌朝に運転されている。西九州新幹線の場合、距離程が約67㎞と短いため、確認作業も効率化が求められている。そのため、1台で全線・上下線の確認作業が行われているのが特徴だ。新大村駅付近にある保守基地から確認車は出発するのだが、以下の4パターンの運転順序が用意されている。

●新大村→(上り線)→武雄温泉→(下り線)→長崎→(上り線)→新大村
●新大村→(下り線)→武雄温泉→(上り線)→長崎→(下り線)→新大村
●新大村→(上り線)→長崎→(下り線)→武雄温泉→(上り線)→新大村
●新大村→(下り線)→長崎→(上り線)→武雄温泉→(下り線)→新大村

 この4パターンをまんべんなく使うことで、「最後に確認車が走る区間」をバランスよく設定することができる。この「最後に確認車が走る区間」で、レール削正作業や構造部の点検など、作業時間が掛かる作業を行うのである。

自動運転のR600確認車

 2024年2月からは、西九州新幹線においてR600確認車による自動運転が始まった。責任者は1名乗るのだが、運転操作や支障物検知は、画像検知を使って自動で行われる。開業直後から試験が繰り広げられてきたが、ようやく実用化のめどが立ったとのことだ。試験の詳しい様子は、「新幹線EX」Vol.68の記事をご覧いただきたい。
 この支障物検知のシステムと、保守用車の保安装置の兼ね合いがなかなか難しかったとのこと。支障物検知も、たとえば沿線に設置されている標識類や地上子といったものも、「支障物」として検知してしまうので、ひとつずつマスク(=これは支障物でないという情報をシステムに入れていく)していく必要があったという。

最新鋭のR600確認車。JR九州のみならず他社の新幹線でも導入が進んでいる。

確認車に乗って能登半島地震を支援!

 確認車は、人知れず夜中に走る縁の下の存在だ。もちろん、一般人が確認車に乗ることなど、全くをもって想定していない。
 しかし、JR九州では、2024年3月15日から24日において、チャリティオークション形式で「西九州新幹線での確認車添乗体験」を発売するというのだ。オークションの収益は、能登半島地震の義援金になるという。
 「全部魅せます!新幹線バックヤード ドキドキ潜入ツアー」と名付けられたこのオークションでは、確認車の添乗経験のみならず、斜坑を歩いてMKW(新幹線用作業車)に乗る体験や、レール削正車の作業見学、新大村車両管理室の全般検査の見学など、多彩なメニューで西九州新幹線のバックヤードが楽しめるものである。もし、「確認車に乗ってみたい」という方は、チャレンジしてみてはいかがだろうか。
 なお、「レール削正作業」については、2024年4月20日発売の「新幹線EX71」でも詳しく紹介する予定だ。

「全部魅せます!新幹線バックヤードドキドキ潜入ツアー」オークション
https://www.promo.mbok.jp/jr-kyushu202403

R600の運転の様子。正面左側のモニターに、画像解析された支障物が表示される仕組み。

※ 取材協力:JR九州

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