連載

3月26日深夜。取材班の目の前で行なわれていた、航空の安全のための極秘検証 〜【連載】月刊エアライン制作余話〜

時は3月26日、場所は中部国際空港セントレア。ランプで別の取材を敢行する月刊エアライン取材班のすぐ目の前に広がる滑走路で、ある大掛かりな検証が行なわれていたことが明らかになった。羽田空港でのJAL機と海保機の衝突事故を受け、未来の航空の安全のために実施されたこの前例なき実験。我々はその一部始終を見ていたのだ。

文:竹信大悟 写真:竹信大悟(特記以外)
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中部国際空港セントレアのセンターピアから遠い、貨物エリアのオープンスポットから出発するJAXA宇宙航空研究開発機構の実験用ヘリ、川崎BK117C-2(登録記号:JA21RH)。カメラのタイムスタンプでは3月27日0時55分。

 今年3月26日、深夜の中部国際空港セントレアのエプロンで本誌取材中に、一機のヘリが目にとまった。通常は旅客機や貨物機が駐機されるエリアに、ぽつんと1機だけ異質な存在感を放っていた。機種は川崎BK117C-2、登録記号はJA21RH。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用する実験用ヘリコプターであることを確認。その時点では特別な運航とは認識しておらず、ただ物珍しさもありシャッターを切った。

 その後、国土交通省・運輸安全委員会が羽田空港の航空機衝突事故に関連し、深夜の中部国際空港で再現実証実験を行なっていたことが、朝日新聞の報道によって明らかになった。再現実験では国土交通省の飛行検査機「チェックスター」と、海上保安庁のボンバルディアDHC-8-300を使用。事故当時にJAL516便側から滑走路灯火と海保機の衝突防止灯がどのように見えていたのかを検証する飛行が行なわれていたとされており、当夜に撮影したJA21RHも、こうした検証に関わるフライトを行なっていた可能性が高い。

検証実験フライトにむけて数人のスタッフが離陸準備をしている。青のジャンパーを着たスタッフの左肩にはJTSB(運輸安全委員会)のロゴも見える。
フライトレーダー上の川崎BK117C-2(JA21RH)の航跡。途中電波の受信状態の問題か、航跡に若干の乱れが見受けられるが、それでも時折実験が行なわれたと思われるRWY36側に近づいている様子が分かる。
Courtesy of
Flightradar24.com.
こちらはセスナ・サイテーションCJ4「チェックスター」(JA009G)の航跡。何度もRWY36にアプローチしている様子がうかがえる。
Courtesy of
Flightradar24.com.

 羽田空港の事故は、2024年1月2日、C滑走路に停止していた海上保安庁のDHC-8-300と、着陸したJAL516便(エアバスA350-900・登録記号JA13XJ)が衝突し、海保機側の乗員5名が死亡。一方、JAL機側は乗員乗客379名全員が機体から脱出したというものだ。運輸安全委員会は2024年12月に公表した経過報告で、海保機側の滑走路誤進入、その事実についての管制側の未認識、JAL機側の視認困難という3つの要因を列挙している。

 今回のように、実機と実際の灯火環境を用いてパイロットの視界を検証する試みは国内でも極めて異例だが、その分だけ、今後の報告書が灯火のあり方や、滑走路監視の手法をどう位置づけるのかを見極める上で重要な材料となるはずだ。この再現実験の結果が、今後の事故調査報告書にどのように反映されるのか、引き続き注目していきたい。

2024年1月、海保機と衝突後、C滑走路脇で焼損したJAL516便のエアバスA350-900(JA13XJ)。この事故で海保機に搭乗していた6名のうち5名の命が奪われた。一方で、JAL機側は乗員乗客379人全員が機外へ脱出した。
Photo: AIRLINE