連載
燃料満タン=航続距離最長ではない~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
飛行機のカタログなどに見られる「航続距離」は、大雑把な目安を示すだけのものだ。たとえば自動車のカタログでも、燃料タンクの容量と燃費を掛け算すれば航続距離はわかるが、誰もそれを真に受けたりはしない。満タンで300kmは走れそうだなとか、400kmはいけそうだという参考にはできるが、実際の走行可能距離は走り方や道路の状況によって変わってしまう。飛行機の航続距離も、それと似たようなものだ。
ただし飛行機では、それだけではすまない事情もある。自動車ならば気軽にガソリンスタンドに寄ることができるが、飛行機はそうもいかない。どうしようもないときには着陸して給油するしかないが、洋上飛行ではそれもできない。しかも旅客機では「出発前にいつも満タンにしておく」ということもできない。普通の旅客機は、満席の乗客といっぱいの貨物、そして満タンの燃料を積むと離陸できる最大重量を上まわってしまうからだ。たとえ満タンにできたとしても、必要以上に多くの燃料を積むと機体が重くなって燃費が悪くなる。そこで、必要な燃料を厳密に計算して搭載するようにしている。
ごく大雑把には、まずは風向風速のデータを参考に飛行ルートを決める。多少は最短経路から外れても、できるだけ追い風に乗れるような、あるいは向かい風を避けられるようなルートを選ぶのが基本だ。こうして距離がわかると、巡航速度と風速から所要時間がわかる。それに燃料消費率を掛ければ、必要な燃料の量を計算できる。旅客機では高度ごと、パワーごとの燃料消費率が細かくデータになっており、それは自動車のカタログ燃費よりはかなり正確だ。もちろん大きなパワーを使う離陸時や上昇時には巡航時よりも多くの燃料を消費するが、それも加算して飛行全体を通しての燃料の量を計算できる。
それでも実際に飛んでみたら、上空の風が予報とは違うということもあるだろう。だからそうした誤差も考慮した燃料も加える。また目的地が悪天候などで着陸できなくなった場合に備えて他の空港に向かうための燃料や、空港の混雑などによって離着陸前に待たされる可能性に備えた燃料も加える。
こうして必要な燃料の量(重さ)が決まったら、それを飛行機に積んでも飛べるかどうかを確認する。もし最大重量(機体本来の最大離陸重量だけでなく、滑走路の長さなども影響する)をオーバーしてしまったら、まずは貨物を降ろし、それでも足りなければ乗客を降ろす。そこまですることは滅多にないが、性能ぎりぎりの路線を飛ばすときには最初から乗客数を制限して座席を販売することもある。たとえばDHC-6ツインオッター時代の那覇=南大東線は、そうした定員を減らす運航を行なっていた。
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