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エンジンの推力はなぜ重量の単位で表されるのか ~ 連載【月刊エアライン副読本】

文:阿施光南 写真:阿施光南
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【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。

 ジェットエンジンの推力を表す単位には、N(ニュートン)、kg(あるいはトン)、lb(ポンド)などが使われている。このうち力を表す単位なのはNだけだ。kgやlbは力ではなく質量を表す単位なのだ。では、なぜそんな単位が使われているのか。

 まず基礎の復習だが、力は「質量×加速度」であり、1Nは「質量1kgの物体を毎秒1mで加速する力」である。この加速度として、最もなじみ深い地球の重力加速度(約9.8m/s2)を使った力を「kg重」や「kgf」あるいは「kgw」などと書いた。これが地上で感じる「重さ」になる。つまり重さというのは、質量ではなく力なのである。

ジェットエンジンの推力は吸い込んだ空気をどれだけ加速したかで計算される。
ジェットエンジンの推力は吸い込んだ空気をどれだけ加速したかで計算される。なので静止した状態と、飛行中(もともとの空気が速い)では、推力は大きく変わる。

 たとえば宇宙ステーションの中ではどんなに質量が大きくても重さがない。それが地上では重くなるのは、地球の重力加速度が働くからだ(教科書ではないので厳密な言い回しについて突っ込むのは勘弁ね)。そして一般向けのエンジンの性能表などでは、なぜかkg重などを省略してkgと書くのが慣例となってしまったのである(lbも同様)。

 また1kg重は「質量1kgの物体を約9.8m/s2で加速する力」だから、換算すると約9.8Nとなる。9.8を掛ければいいのだから、換算としては簡単だ。面倒ならば10を掛けてやれば、大雑把には十分だろう。たとえばANAのホームページにある旅客機紹介では、A380のエンジン推力は34,088kgと書かれている。これは34,088kg重を省略した表現であり、Nに換算すれば約334kNとなる。今後はこうしたN表記が増えていくだろうし、またそうすべきなのだろう。

力を表すSI単位はN(ニュートン)だが、推力にはkgが使われることが多い。
力を表すSI単位はN(ニュートン)だが、推力にはkgが使われることが多い。これはkg重を省略したもので、ANAのWebでもA380のトレント970は1基あたり34,088kgと書かれている。換算すると334kNになる。

 とはいえ、あいかわらずkg(重)が多く使われているのは、古くから馴染んでいるからというだけでなかろう。たとえばkg重だと日常的に使われているkgという単位との関連が直感的に理解しやすいが、Nにはそれがない。モノの重さなどを表すのにNが普通になれば、エンジン推力にもNを使う方がわかりやすくなるかもしれない。

 もうひとつは、日本では1992年の計量法改正以後の混乱が、30年もたった現在も収束していないからではないか。これは日本でも単位系をSIに統一するという法律だが、経済産業省(当時は通商産業省)は、ここで本来の質量や重さ、重量などといった用語の使い方をゴチャゴチャにしてしまったのだ。そのカオスのような状況の中で、いちばん混乱が少なく理解しやすいのは昔ながらのkg(重)で推力を表すことなのかもしれない。

戦闘機では、機体重量とエンジン推力の割合を示す推力重量比が性能を示すひとつの指標となっている。
戦闘機では、機体重量とエンジン推力の割合を示す推力重量比が性能を示すひとつの指標となっている。こんなとき、推力をkgで表示するのはNよりも直感的にわかりやすい。

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