連載

操縦・整備ともに利点を示した40年、フライ・バイ・ワイヤー[後編] ~ 連載【月刊エアライン副読本】

文:阿施光南 写真:阿施光南
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【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。

 正直なところ、A320が登場した頃には、旅客機にあえてフライ・バイ・ワイヤーを採用するメリットの大きさを十分に理解していなかった。現にボーイングはA320よりもあとに開発した737NGにもフライ・バイ・ワイヤーを採用しなかったし、それで737NGの売上げがA320よりもわるかったわけではない。

 だがエアバスは、大型のA330やA340にもフライ・バイ・ワイヤーを採用し、しかもA320と同じコクピット、同じ操縦感覚を与えた。間にコンピューターを介しているから、自在に操縦方法や感覚を設定できるのである。例えばA340にはA330にはない外側エンジンがあるから、推力の増減に対する機体のピッチ変化が少し異なる。こうしたことは従来の非フライ・バイ・ワイヤー(コンベンショナルな操縦系統)の旅客機ではパイロットが意識して補正する必要があった。

 しかしA340ではコンピューターが自動的に補正してしまうからパイロットは違いを意識する必要がない。あるいはエンジン1発故障時に、四発機のA340は4分の1の推力を失うだけだが、双発のA320やA330は半分の推力を失ってしまう。コンベンショナルな機体ではその違いは大きいが、フライ・バイ・ワイヤーならばやはりコンピューターが自動的に補正してくれる。「何ならパイロットは手放しをしたままでもいいのだから」とエアバスのテストパイロットが話してくれたことがある。

フライ・バイ・ワイヤーは単一機種でもメリットがあるが、エアバスのように異機種の操縦方法や操縦感覚を共通化することで、より大きなメリットが得られるようになった。

※ 初出時、写真と機種名に誤りがありましたので修正しました。

 こうした共通性はさらに大きなA380にも踏襲されており、A320とほぼ同じ感覚で飛ばすことができるという。フライ・バイ・ワイヤーは、エアバスファミリー全体の操縦の共通化(機種ごとの訓練期間の短縮や機種ごとの違いによるミスの防止)という新たなメリットをもたらしたわけだ。

 またフライ・バイ・ワイヤーは、整備面でもメリットがある。自転車でもブレーキワイヤーなどの定期的な調整が必要だが、従来はそれと同じようなことを巨大な旅客機で行なう必要があった。舵のニュートラルと操縦装置のニュートラルをぴったり合わせ、しかも左右でもズレがないようにするという作業は大変な手間だろう。しかしフライ・バイ・ワイヤーならば、電気的に調整できるからより簡単だ。

 エアバスのフライ・バイ・ワイヤーには、今でも「コンピューター優先、人間軽視」という否定的も声があるが、それは誤解であって、普通の飛行機のように(プロテクションを無効化する)操縦できるモードもある。そして信頼性についても、A320が初飛行してすでに40年近くを経た現在では十分に実証されているといえるだろう。

ボーイングも初のフライ・バイ・ワイヤーである777と787の操縦資格は共通化している。