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操縦輪はなんと読む ~ 連載【阿施光南の月刊エアライン副読本】

文:阿施光南 写真:阿施光南
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【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 阿施光南の月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。

 コクピットの象徴ともいえる操縦装置が「操縦かん」だ。前後に押し引きすることでピッチ(機首の上下)を、左右に倒す(あるいは回す)ことでロール(左右への傾き)をコントロールできる。英語では「control stick」といい、漢字では「操縦桿」と書く。「桿」というのは棒のことで、戦闘機やグライダーなどには文字通りの操縦桿を装備したものが多い。

 ただし大型機では、昔から自動車のハンドルのように円い操縦装置を持つものが多く、こちらは「control wheel」と呼ばれ、日本語では「操縦輪」と訳されている。やがて操縦輪は形を変えていき、現代のボーイング旅客機に見られるようなものが一般的になった。もはや円くはないが、操縦輪という呼び名はそのまま継承されている。

航空自衛隊で使われたF-104J。本来はこういうスティック状のものを「操縦かん」という。
1931年に製造されたカーチスライト6Bは円いコントロールホイールを備えていた。
1932年に初飛行したJu52/3mは、上部を切り欠いた円形のコントロールホイール。

 また操縦かんには「yoke(ヨーク)」と呼ばれるものもある。ヨークというのは天秤棒のように中央を支点として左右に伸びた棒のことだ。例えばコンコルドのような逆W型のものはヨークと呼ばれることが多いが、こちらは定着した訳語がないのでカタカナで「ヨーク」と書く。

 ちなみにE175やE190もコンコルドのような逆W字型の操縦かんを備えているが、メーカーのエンブラエルはこれを「control wheel」と呼び、マニュアルにもそう記載している。ならば日本語でも「操縦輪」と書いていいわけだ。「ぜんぜん円くはないじゃないか」というのは、ボーイングのなどの操縦輪でも同じだから、もはや気にする必要はないだろう。

現代の旅客機で一般的なコントロールホイール。もはや円いかどうかは関係ない。
ヨークと呼ぶのがふさわしい形のE170だが、メーカーはコントロールホイールと呼んでいる。

 さて、問題は「操縦輪」は何と読むかということだ。漢字の読みとして正しくは「そうじゅうりん」だが、実際にそのように呼んでいる人は航空関係者にもほぼいないのではないか。だいたい「コントロールホイール」か「そうじゅうかん」と呼んでいる。「そうじゅうりん」といわれても、普通は何のことだか分からないだろうし、正しい読み方よりも分かりやすさを優先すれば、それもありだと思う。とはいえ、原稿で「操縦輪」と書くときにはいつもモヤモヤする。

 実は「操縦環」ならば読み方も意味も両立できるのではないかと使ってみたことがあるが、「誤字だ」との指摘が相次いだのでやめた。いまでも悪くない当て字だったのではないかと思っているのだが。

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