特集/本誌より

業界常識を変えた革新的空港「セントレア」が開港20周年の節目

来る2月17日に中部国際空港が開港20周年を迎える。「セントレア」の愛称で親しまれる同空港は、革新的な取り組みにより空港運営の常識を変え、その後の国内空港の経営にも影響を与えてきた。

文:本誌編集部 写真:本誌編集部
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2月17日に開港20周年を迎えるセントレア。開港前は建設コストの大幅削減で注目を集め、開港後は商業施設の売上やテナント料などの「非航空収入」を極大化する戦略が、各地の空港運営にも影響を与えるようになった。

全国の空港運営のモデルに

 名古屋空港(現・県営名古屋空港)に代わる中部地区の新たな国際空港として2005年にオープンしたセントレアが、2月17日に開港20周年の節目を迎える。空港を管理・運営する中部国際空港株式会社(以下、中部空港会社)は、開港前から「非航空収入の拡大」による経営の安定を戦略の柱に据え、収益の原動力として和洋の街並みをターミナルビル館内に再現した商業ゾーン「スカイタウン」や離着陸シーンを眼前にできる展望施設「スカイデッキ」などを整備。従来の空港にはない斬新な施設や空間が開港直後から話題を集め、セントレアは観光地化して大いに賑わった。中部空港会社の目論見は見事に成功したのである。

 空港経営における収入は「航空収入」と「非航空収入」の2つに大別できる。前者は航空会社や航空旅客が支払う着陸料・施設使用料など、後者は主に空港直営売店の売上やテナントの賃料などといった商業収益である。社会の重要インフラである空港は、国や自治体が設置管理者である場合が多いこともあり、従来は「商業的な利益を追求する施設」という発想が乏しかった。つまり、「航空収入」への依存度が高かった。

 そんな常識を覆したのがセントレアである。前述のように、航空機の発着風景を眺められる環境を「非日常性を味わえる観光資源」と捉えて広大な展望施設を整備し、エンターテインメント性に満ちた商業ゾーンとともに集客の目玉としたのだ。空港見学が目的の一般来港者は開港後の1年間で約1,300万人に達し、航空旅客数をわずかに上回ったというから驚くべき実績である。実質的な開港初年度となる2005年度は、免税店や一般物販店、飲食店の売上を合わせた構内営業売上高が300億円近くにもなり、こうした「非航空収入」が寄与して中部空港会社は初年度から黒字を達成した。

 航空ファンにフレンドリーなのもセントレアの長所だ。「セントレアフォトコンテスト」(『月刊エアライン』共催)や「航空ファンミーティング」などを毎年開催するほか、滑走路脇で離着陸風景を撮影することもできる「セントレアまるわかりツアー」は人気のアトラクションとなっている。

 こうした「ファン・フレンドリー」な姿勢は設備にも表れており、その象徴が「スカイデッキ」のワイヤー式フェンスだ。より開放的で撮影もしやすいようにと、開港前はフェンスを設置しないことも考えていたが、空港建設中の2001年に発生した米国同時多発テロの影響で空港セキュリティが厳格化されたこともあり当局から認可が得られなかった。そこで、防護効果を保ちつつ大口径レンズでも撮影しやすいフレキシブルワイヤーを用いたフェンスを考案し、空港の展望デッキとしては初めて導入したのだ。

 空港を観光地化して「非航空収入」を拡大するというセントレアの戦略は、その後の他空港の運営に大きな影響を与えた。和風のインテリアが特徴的な商業ゾーンとワイヤー式フェンス採用の展望デッキを持つ羽田空港の第3ターミナル(2010年開業)は代表的な例と言えるだろう。また、展望デッキにワイヤー式フェンスを導入する空港は全国的に増え続けている。

和風の「ちょうちん横丁」と洋風の「レンガ通り」の街並みが広がる商業ゾーンの「スカイタウン」。空港自体が観光地化しており、航空旅客以外の一般来港者も大勢訪れる。
航空ファンにフレンドリーなセントレア。スカイデッキには撮影しやすいワイヤーフェンスを初めて採用したほか、子供や車椅子利用者でも眺めやすいよう手すりを低くしたビューポイントも設けている。

 開港前のセントレアは建設コストを大幅削減することに成功した点でも大きな注目を集めたが、中部国際空港株式会社を中心に建設段階から一貫して民間主導により運営されてきたのがセントレアの特徴であり、成功の要因とも考えられている。近年、国管理空港などで運営の民間委託が進んでいるが、これもまたセントレアの成功が影響を与えているのは間違いない。

 コロナ禍では国際線が一時全便運休に追い込まれるといった危機的状況にも直面したが、2024年の訪日外客数が過去最高を記録するなど再び追い風が吹き始めた。セントレアは完全24時間運用の実現に向け、代替滑走路の整備プロジェクトも進めており、さらなる機能強化や魅力向上へ向けて、「第2の開港期」を迎えようとしている。空港のあり方を革新し続けてきたセントレアにとって、20周年の節目は単なる通過点にすぎないのかもしれない。

中京圏の航空機メーカーで製造された787の大型コンポーネント積み出し基地になっている縁で、ボーイングが貴重な初号機を寄贈。複合商業施設「フライト・オブ・ドリームズ」に展示され、無料で見学できる。
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