特集/本誌より

ボーイング ジャパン新社長エリック ジョン氏が、月刊エアラインに語る!

今年6月より、ボーイングの日本法人ボーイング ジャパンを率いるエリック ジョン社長。就任から約1か月というタイミングで、月刊エアラインが単独インタビューする機会を得た。元は外交官として、32年間にわたり活躍してきたというバックグラウンドを持つ。日本とボーイングの深い関係性から好きな飛行機のことまで、1時間にわたり訊いた。
※本記事は月刊エアライン2024年10月号から転載したものです。

文:山田 亮(本誌編集部) 写真:阿施光南
X Facebook LINE
ボーイング ジャパン社長(ボーイング グローバル バイス・プレジデント)のEric John氏。ボーイング入社以前はアメリカ合衆国の上級外交官として32年間にわたり活躍。1983年の外交局入局以来、在韓国米大使館公使、米国務省韓国課副課長、米国務次官補代理(東南アジア担当)、駐タイ米国大使、米空軍参謀総長の外交政策顧問などを歴任。インディアナ州出身、韓国語とベトナム語も操る。

アメリカという国を代表する外交官としての経歴について

 国際政治の最前線における錚々たるプロフィールを予習してきたものだから、くれぐれも失礼のないようにと緊張の面持ちでボーイングジャパンのオフィスを訪ねた筆者。自己紹介も兼ねて、『月刊エアライン読者の皆さんは飛行機を愛していて、日本のエアライン界と長く歩んできたボーイング機への愛着がとても深いのです』という話をしたところ、「私もですよ!」と気さくに迎えてくださったエリック ジョン社長。
 ひと安心したところで、アメリカ合衆国の国家機密に踏み込まない範囲で、外交官としての経歴について伺ってみた。

「外交官としては、たとえばアメリカと北朝鮮、韓国、中国の4か国協議をリードする立場で関わりました。また安全保障交渉担当大使としてフィリピンとの防衛協力協定の交渉、オーストラリアや韓国との安全保障関係の協定交渉にも携わってきました。こうして歴代の大統領や国務長官とともに、アメリカという国を代表して世界と仕事ができたことに誇りを感じています。外交官時代は、米空軍参謀総長の外交政策顧問として軍用機については無縁ではありませんでしたが、ボーイング社そのものと深く関わったことはありませんでした」

ボーイング コリア社長として、2014年から10年間のエピソード

 そんなエリック社長がボーイングに入社したのは2014年。韓国法人であるボーイング コリアの社長としてソウルのオフィスに着任し、今回の東京勤務までの約10年間を過ごすことになる。

「私は外交官として1980年代、1990年代、2000年代の3度にわたり韓国での勤務経験がありました。ボーイングとしては、その経験を活かして韓国との関係性を戦略的に成長させていく役割を私に期待したのです。初めての訪韓は1984年、東京経由のノースウエスト航空で、とても賑わっていた成田空港の円形のサテライトの光景を今でも覚えています。
 そのあと到着した当時のソウル金浦空港は、少し古めかしいターミナルだなという印象を持ちました。現在の素晴らしい仁川国際空港を思うと、この40年間で韓国という国がいかに成長したかがわかります。そのことは、韓国の航空宇宙産業における成長も同じで、こうした発展に携われたことを嬉しく感じています」

 ボーイング コリアでの仕事、とりわけ印象的なエピソードについても訊いた。

「航空宇宙業界の仕事は、非常にサイクルが長いのです。例えば、この7月に韓国海軍に納入された哨戒機P-8ポセイドンは、7年前からキャンペーンを行なってきました。納入時点で私はすでに日本に着任しており、韓国を離れていましたが、とても感慨深いものがあります。同じように、今日発表された大韓航空からの777X 20機と787 20機の受注も、非常に嬉しいニュースでした(編集部注:本取材はファーンボロ・エアショー会期中の7月23日に実施)。
 もうひとつ印象的なのが、2019年に立ち上げた研究開発拠点のボーイング コリア・エンジニア・テクノロジー・センターで、今では100名もの技術者たちがボーイングにとって大きな価値を提供しています」

 研究開発拠点については今年4月、日本でも名古屋にボーイング ジャパン リサーチセンターが誕生しているが、両者の役割は異なるのだろうか。

「韓国ではアビオニクスやソフトウェア、AIを駆使した製造システムの開発に焦点を当てているのに対して、名古屋ではロボティクス、代替燃料、製造システムに焦点を当てて研究開発を行なっています。それぞれの国のパートナーの長所によって、研究開発のテーマも異なるのです。共通しているのは、どちらも非常に優秀なパートナー企業や大学、そして有能な人材が活躍しているということ。例えば、多くのノーベル賞受賞者を輩出している名古屋大学などは、その代表的な存在といえるでしょう」

日本のパートナー各社との関係性をさらに強固かつ深く発展させるという、その重要性について熱く語ったエリック社長。約1時間の濃密なインタビューだった。

エアライン、サプライヤー、さらに高めてゆく日本との信頼のパートナーシップ

 こうした経験を踏まえて、これまでの韓国でも、これからの日本においてもボーイングにとって重要なことは“パートナーシップ”であるとエリック社長は強調した。

「ボーイングにとっては、お客さまであるエアライン、あるいはサプライヤー企業との関係性が非常に重要です。私たちは数十年をかけてこうした関係性を構築し、プレゼンスを発揮してきました。これには米日同盟や米韓同盟といった国家間の関係性も大きな影響を与えたと思います。こうして互いの関係性への自信を深めていくことは、ボーイングの事業のあらゆる成功の基礎になる部分だと考えています。
 韓国で勤務していたときは、特にサプライチェーンという意味で、積極的に新型機の開発や製造協力に取り組む日本とボーイングの関係が、とても羨ましく思えることがありました。日本にはANAやJALなどのお客さまだけでなく、非常に多くのパートナー企業が存在しているのです。
 これからの私の仕事はまさに、ボーイングの成長にとって必要な日本とのパートナーシップをさらに強化し、関係性を深めていくことだと考えています。日本の航空機産業は、設計や製造の安全性と品質に高い基準を持ち、研究開発にも熱心に取り組んでいます。日本とボーイングには、ともに最新の設計を追求していこうという情熱を共有する関係性があるのです」

そして、最後に最重要の質問。一番好きなボーイング機は何ですか?

 エリック社長のもと、日本とボーイングがさらに関係を深めていく将来が楽しみだが、ここで大切なことを質問していないことに気がついた。一番好きなボーイング機について、である。

「すでに製造を終えているので、最適な答えかどうかわかりませんが…747-8です(笑)。大韓航空に初号機を納入した際には、クルーレストなど機内のすみずみまでを見学する機会がありました。きっと読者の皆さんは羨ましく思うのではないでしょうか? また2週間前には、ソウルからロンドンまで747-8に搭乗してきました。ロマンのある、本当に良い飛行機ですね。ただし、ロングフライトでも身体的に疲れない快適性という意味では、やはり最新の787が勝ると思います。
 このさき、日本にお届けする777Xや737 MAXも、高い快適性が自慢の、ワクワクするような飛行機です。日本のエアラインの素晴らしいサービス、高い運航品質とともにご搭乗いただける日を、ぜひ楽しみにしていてください」

※2024年7月23日、都内にて取材。

もっとも好きなボーイング機という問いには、2023年1月31日に最終号機がデリバリーされた747-8を挙げた。取材の最後、この伝説的な“Queenof the Skies” の最終号機の素材から削り作られた、貴重な記念コインを持ってきてくださった。
今年6月より、ボーイングの日本法人ボーイング ジャパンを率いるエリック ジョン社長。就任から約1か月というタイミングで、月刊エアラインが単独インタビューする機会を得た。元は外交官として、32年間にわたり活躍してきたというバックグラウンドを持つ。日本とボーイングの深い関係性から好きな飛行機のことまで、1時間にわたり訊いた。 ※本記事は月刊エアライン2024年10月号から転載したものです。

関連キーワードもチェック!