航空旅行

機内食に向いている食材、向かない食材

機内食は地上のレストランで食事を楽しむのとは違い、出発前に調理したものを衛生面の理由から一度冷却して、食べる直前に再加熱して提供される。
上空でも美味しく食べられるものとは何だろうか?
※この記事は 『航空旅行vol.28』(2019年1月発売)から抜粋・再編集したものです。

文:『航空旅行』編集部
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美味しさの決め手は“保水力”

 上空1万mでは気圧も低く、湿らせたおしぼりも数十分でカラカラに乾いてしまうほど乾燥した状態になるため、味覚を司る舌の機能も低下していく。そのため、このような特殊な環境の中で美味しい機内食を作ろうと思えば、食材や調理法にさまざまな工夫が必要だ。特に美味しさを保つうえで大事になってくるのは“保水力”で、いかに食材そのものが持っているみずみずしさを、食べる瞬間までキープできるかがポイントとなる。
 その点、野菜全般は、メインディッシュの加熱する料理であっても保水に長けていて、色彩もバリエーションに富んでいるので機内食向きだ。キノコ類も旨味成分を多く含み、向いているといえる。肉類では適度に脂分を含んでいるものがよく、鶏肉であれば胸肉とモモ肉、牛肉であればフィレ肉、さらにラム肉も機内食向き。脂分でいえば牛肉のサーロインも良さそうだが、逆にサーロインは脂分が多すぎて、万人が食べる機内食では扱いが難しい。
 魚も肉と同様に、脂分が多めのものが向いている。具体的にはノルウェー産のアトランティックサーモンや鰤(ブリ)、鯖(サバ)などで、とくにサーモンは衛生面での管理もしやすく保水力も優れているので、機内でも生に近い状態で提供できる。よく前菜でサーモンが出てくるのは、このような理由があるためだ。

不可能を可能にした「本鮪のお造り」

 一方で、機内食に向いていない食材もある。その代表と言えるのが刺身に代表される生もので、中毒症状が危惧されるふぐや生ガキなども当然のことながらNGである。よって、もっとも代表的な和食である寿司は、残念ながら機内食には向いていない。しかし実際には、エアラインによっては「本鮪のお造り」のようなメニューもある。これは見た目も食感も刺身そのものだが、実は菌の繁殖を抑えるために表層を軽く炙る処理が施されているのだ。刺身は機内食に向かないが、調理技術がその制約を乗り越えた例といえる。
 またエスプーマのような泡状の料理も、機内では泡を長時間に渡って形を損なわず保つことができないので向いていない。豚肉のフィレ、鶏のささみなど脂分の少ない肉も、機内で再加熱する際に水分が失われてパサついた食感になってしまうので、使えないことはないが、機内食には向いていないといえる。
 保水力を保つために、機内食では低温調理や真空調理という方法もよく使われている。鶏肉であれば、調味液で満たしたバッグに入れて真空機
で空気を抜き、それから80度程度のお湯の中に入れて、鶏肉の内部の温度が74.1度に到達した時点で調理を終えることでジューシーに仕上がるという。手間と時間がかかる調理法だが、機内食で勝負するエアラインにとって、美味しさには代えられない。いつも何気なく食べている機内食の一つひとつには、目に見えない作り手たちの知恵と努力が詰まっているのだ。

機内食は地上のレストランで食事を楽しむのとは違い、出発前に調理したものを衛生面の理由から一度冷却して、食べる直前に再加熱して提供される。 上空でも美味しく食べられるものとは何だろうか? ※この記事は 『航空旅行vol.28』(2019年1月発売)から抜粋・再編集したものです。

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