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JAL、ボーイング787-9「CONTRAIL」特別塗装機をお披露目。12月4日から国際線で観測スタート

JALが12月3日、大気観測装置を搭載したボーイング787-9を羽田空港でお披露目。搭載機となった登録記号JA868Jには、かつて777-200ERで観測を実施していた際にも使用されていた「CONTRAIL」特別塗装が施された。12月4日の成田発フランクフルト行きJL408便から定期便での観測をスタートさせる。

文:本誌編集部 写真:本誌編集部
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初号機JA868Jが特別塗装でデビュー。12月4日からJAL国際線で観測を開始

 JALと公益財団法人JAL財団は、気象庁気象研究所、国立環境研究所、ジャムコと共同で取り組む「航空機による大気観測プロジェクト(CONTRAIL)」において、新たにJALのボーイング787-9を用いた観測を開始する。

 今回、787-9向けに新たな観測機器の開発と機体改修が完了し、12月3日に羽田空港のJALメインテナンスセンター2(M2ハンガー)で初号機がお披露目された。登録記号はJA868Jで、現在は主に成田発着の長距離国際線で運航されている「E71」のコンフィギュレーションの機体となる。初号機の機体後部には「CONTRAIL」の特別塗装が施された。かつて777-200ER(登録記号JA705J、JA707J)にも施されていた同塗装をマイナーチェンジしたデザインとなっている。

 JA868Jは12月4日早朝に羽田から成田へとフェリーされ、成田発フランクフルト行きJL407便で定期便に復帰。通常運航と並行して観測が開始される予定だ。

機体後部に「CONTRAIL」のロゴが追加されたJA868J。
777時代からマイナーチェンジが施された「CONTRAIL」のロゴ。
機体後部の「CONTRAIL」ロゴと、登録記号の「JA868J」。
機体後部に「CONTRAIL」のロゴが追加されたJA868Jを機体後方からのぞむ。

現在までに3万件超の観測データを収集。787への搭載で観測範囲をさらなる拡大を見込む

 「CONTRAIL(Comprehensive Observation Network for Trace gases by Airliner)」は、民間航空機を活用し、大気に含まれるCO₂などの温室効果ガスの濃度を広範囲かつ高頻度で観測する、国際的な共同研究プロジェクトだ。1993年にJALとJAL財団、気象研究所によって開始され、後に国立環境研究所とジャムコも加わり5者体制で推進されている。

 JAL機に装置を搭載しての大気観測は1993年に開始し、これまで747-200、747-400、777-200ER、777-300ERで実施。世界の84空港、約2万2,000回のフライトで収集された3万件以上の観測データは世界中の研究機関に提供され、気候変動研究の基礎データとして国内外の研究者から高く評価されてきた。しかし、2020年度以降は搭載機の777-200ERが退役したことにより、観測の機会が減少していた。

 今後は2025年度中に4機の787-9を追加で改修し、5機体制で観測が行なわれる予定となっている。異なるコンフィギュレーションの機体にも機器を搭載することで観測範囲を広げ、インドや赤道域での観測を再開するほか、羽田=ドーハ線を活用した中東地域での初観測にも期待がかかる。

 なお、CONTRAILプロジェクトによって取得したデータは無償で公開され、世界中の研究者がアクセス可能となる。

777では、8機の777-200ERと2機の777-300ERに観測機器を搭載。しかしながら2025年11月時点ではそのほとんどが退役し、JA733Jを残すのみとなっていた。
これまでJAL機によって観測を行なった都市と、各都市における観測回数。大気は東西方向にはよく混ざるため、地球規模の傾向を知るには南北分布の把握が重要。そのため海外ではシドニーでの観測回数が1,500回以上と多いのが特徴的だという。
787-9への機器搭載によって観測可能となる都市の一覧。世界の広範囲を網羅しており、特に赤道域や北極圏、シドニーよりも南に位置するメルボルン、これまでデータ空白地帯だった中東地域での観測に期待を寄せている。
国立環境研究所 地球システム領域 地球環境研究センター 特命研究員の町田敏暢氏は、「鉛直分布の大気観測は飛行機ならでは。地上観測では絶対に得られない情報で、世界的にもデータが少なく非常に貴重。毎日のようにデータを取れるのが夢のよう」とコメント。
JAL財団(旧・日航財団)設立に携わり、航空機を活用した大気観測の立ち上げメンバーでもあった、JAL 広報部 アーカイブズグループ 伊藤勝久氏は当時の苦悩を振り返り、「気象研究所の先生からの“最低でも10年続けなければ意味がない”という言葉は非常に重かった。スキームは成功し、結果として30年近く継続している」と語った。

787独自の外気取り入れシステムにより、サンプリングの正確性が向上

 従来の777では、エンジンから抽出される圧縮空気(ブリードエア)をエアコンシステムに供給していたが、787では「ブリードレス構造」を採用し、胴体下部にある外気取り込み口から直接エアコンシステムに外気を供給する方式に改められている。これにより、大気観測においても、より正確な大気サンプルの取得が可能となった。

 外気取り込み口から供給された空気は客室と操縦室それぞれに別の導管を通って供給されるが、今回の大気観測では操縦室へ送られるダクトを活用。新たに観測装置へ空気を送る導管が設置されている。

機体の改修内容を解説する、JALエンジニアリング 技術部長の鈴木正美氏。今回の改修にあたっては、観測装置の開発・製造をジャムコ(日本)が、機体改修・搭載に関する設計をボーイング(米)が、装置周辺の配線・配管設計をJamco America(米)が担当した。
観測装置に大気が送られる仕組み。胴体下部の外気取り込み口から入った空気は客室と操縦室へと分かれるが、客室の空気は循環空気であるため観測には使用せず、操縦室へ送られる空気を活用する。
観測装置は前方貨物室に搭載。上空12地点の空気サンプルを採取し、CO₂やメタンなど複数の物質の濃度を観測できるASE(Automatic Air Sampling Equipment)と、飛行中に連続してCO₂の濃度のみを測定・記録するCME(Continuous CO₂ Measuring Equipment)という2種類の装置が組み込まれている。
787の胴体下部、主翼の付け根付近に位置する外気取り入れ口。

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