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第2回 「臆病」にも断念したフリーゲージトレイン ~ AIRLINE×新幹線EX 特別企画
いよいよ開業する北陸新幹線金沢~敦賀間。前回の西九州新幹線同様、新幹線と在来線の乗り換えが注目される開業だ。その裏で開発が進みながら断念された、フリーゲージトレインを紹介しよう。
ハードルの高い新幹線整備
日本の新幹線は、レール幅が1,435㎜の標準軌なのに対して、在来線は1,067㎜の狭軌だ。そのため、新幹線と在来線は、そのままでは直通できない。一方で、新幹線が到達していない地方都市では、新幹線を求める声が大きい。
しかし、新幹線はJRが自由に作り、運営しているものではない。「全国新幹線鉄道整備法」という半世紀以上前の法律で、敷設する路線が決められており、極めて限られた国家予算のなかで、鉄道・運輸機構が敷設している(国鉄時代に開業した区間を除く)。しかし、その割り当てられる予算が少ないものだから、「全国新幹線鉄道整備法」で建設が決定した5路線(九州・西九州・北陸・東北・北海道新幹線)すら、半世紀以上たってもいまだにすべては開業していない。とりわけ、西九州新幹線の新鳥栖~武雄温泉間や、北陸新幹線の敦賀~新大阪間に至っては、着工すらしていない状況だ。そして、その5路線が全線開業しないことには、次のステップには進めない。それゆえに、新幹線を熱望している四国や山陰などに新幹線網が届く日は、はるか先のことになるだろう。
フリーゲージトレインの存在
整備計画から外れた地方都市に、新幹線を乗り入れさせるには、2つの方法が考えられた。ひとつは在来線の軌間を新幹線に合わせる「ミニ新幹線」と呼ばれる手法。そしてもうひとつが、車両側で車輪幅を変えてしまう「フリーゲージトレイン」という手法だ。
すでに「ミニ新幹線」は、山形新幹線と秋田新幹線で実用化されている。ミニ新幹線化で、両都市とも東京への行き来のメインが新幹線が主流になり、利用者数が大幅に増えている。それは山形空港の羽田線の推移をみると、より明確にわかるだろう。
ただ、ミニ新幹線にもデメリットがある。それは軌間を広げるための工事のため、1年程度の運休期間が必要な点だ。幸いにも、山形新幹線・秋田新幹線とも、改軌工事で長期間運休した区間は比較的閑散路線で、バス代行輸送ができたのと、仙山線や北上線など、都市間輸送の代替ができる並行路線が存在していた。
このように「ミニ新幹線」は地上工事の関係で、採用できる区間が限られてしまうのが、現状だ。そこで考え出されたのが「フリーゲージトレイン」というもの。すでに海外では、客車の車輪幅を変えて直通させる手法は歴史があったが、日本の新幹線のように、電車で実施するのにはハードルが高かった。
新幹線をはじめとした電車は、車軸部分に駆動装置と呼ばれる、モーターの回転を車輪の回転に変える機構が組込まれている。またモーターも車軸に並行するように、設置されている。つまり、客車に比べて台車周辺の構造が極めて複雑なのである。
フリーゲージトレインが検討された2路線
ところで、ここ最近は整備新幹線の開業ラッシュだ。2022年度には西九州新幹線(武雄温泉~長崎間)が開業し、2023年度末には北陸新幹線(金沢~敦賀間)が開業する予定だ。
この2つの新幹線に共通した課題として、主要都市間を結ぶ区間の途中までしか新幹線が開業していないという点だ。本来であれば、新鳥栖~長崎、金沢~新大阪間が一括で開業できればよいのだが、予算の関係や、整備新幹線建設の合意(整備新幹線は沿線自治体の費用負担もあるため、沿線自治体の合意が不可欠)の関係で、“中途半端な状態”での開業となった。
では、直通させるために、在来線を改軌して、山形新幹線や秋田新幹線のように直通させればよいように感じられる。しかし、新鳥栖~武雄温泉間は、博多~佐賀・佐世保間の都市間輸送を担っている区間、新大阪~敦賀間も、関西~北陸間のメインルートであり、代替できるような路線もほとんどないのが実情だ。そのため、1年前後運休して改軌させるというのは難しい話である。
そこで、フリーゲージトレインの導入が検討されたのである。
断念されたフリーゲージトレイン
そのフリーゲージトレインも第1次~第3次まで、3つの試験車が作られ、第3次は営業車両としても遜色のない仕上がりとなり、順調に開発が進められていた。しかし、いざ走行試験をしてみると、台車部分に不具合が見つかり、2017年には西九州新幹線での採用が見送られることが決まり、さらに北陸新幹線でも採用しないこととなった。その結果、西九州新幹線は対面乗り換え、北陸新幹線は垂直乗り換えという手法で、新幹線と在来線を乗り継ぐ形で開業する。
フリーゲージトレインの主な不具合は、車軸やその周辺の予想以上の摩耗であった。不具合が見つかったあと、技術開発が進められ、摩耗の量も大幅に抑えることに成功している。しかし、前述のとおり両新幹線では不採用が決まってしまった。あと一歩のところで、導入を断念したのである。
その結果、西九州新幹線・北陸新幹線とも、乗り継ぎが必要になってしまった。しかし、車軸やその周辺というのはフェールセーフの設計が難しいところだ。もし高速で車軸が折損してしまうと、大きな事故に直結しかねない。
一般的にいえば、あと一歩のところで開発をあきらめて、「乗り換え」という大きなデメリットを甘んじて受け入れる姿は、「臆病」そのものである。でも、高速鉄道で安全を担保するには、この「臆病」が一番重要なのである。高速鉄道は、万が一事故を起こせば、一気に数百人から千人程度の死者を出しかねないものゆえに、「石橋を叩いたうえに、中央をそろそろ渡る」ぐらいの「臆病さ」が重要なのである。それゆえに、「最新鋭の乗り物」に見える新幹線だが、新しい技術は在来線の方が早いことが多い。
西九州新幹線が開業した際、「乗り換え」がずいぶん注目され、どちらかというと否定的に捉える人が多かったが、個人的には「臆病な判断をする」という安全へのポリシーを感じさせ、“大きな安心感”を得たものだった。
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