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上反角があれば、姿勢が崩れても元に戻る ~ 連載【月刊エアライン副読本】

文:阿施光南 写真:阿施光南
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【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。

 よく調整された紙ヒコーキは、パイロットが操縦するわけでもないのにまっすぐ飛んでくれる。姿勢が崩れても、自然に元に戻ろうとする安定性があるからだ。もちろん、パイロットが乗る飛行機でも安定性は重要だ。「飛ばすのが楽だから」といえば些細な話のようだが、不安定な飛行機は飛ばすだけでも危険である。

多くの飛行機の主翼には、上反角がついている。
多くの飛行機の主翼には、上反角がついている。これによってパイロットが操作しなくても左右の傾きを戻そうとする。

 たとえば左右への傾き(ロール)に対する横安定は、主翼に上反角をつけることで得られる。多くの飛行機の主翼は、外側に行くほど高くなるようにつけられている。これと水平のなす角度が上反角だ。

主翼を胴体の上につけた高翼形式にも横安定をもたらす効果があるため、上反角をほとんどつけていないものが多い。
主翼を胴体の上につけた高翼形式にも横安定をもたらす効果があるため、上反角をほとんどつけていないものが多い。

 なぜ上反角をつけると安定するのか。飛行機が横に傾くと、傾いた側に横滑りするために斜め前から風を受けることになる。このとき上反角があると、主翼の風上側(下がった側)と風下側(上がった側)で、受ける風の角度(迎角)が変わる。風上側の方が迎角が大きく、より大きな揚力を発生するために復元力が生じるのだ。

高翼機であるセスナ172の上反角は低翼機であるA36ボナンザの上反角よりも小さいが、これでも横安定は十分だ。
高翼機であるセスナ172の上反角は低翼機であるA36ボナンザの上反角よりも小さいが、これでも横安定は十分だ。

 横安定は、上反角だけでなく主翼の取付位置によっても変わる。胴体の上に主翼をつけた高翼機は、 胴体の下に主翼をつけた低翼機よりも横安定が強くなる。これは胴体が横滑りの風をさえぎるため、また重心が低いためでもある。だから高翼機の上反角は、低翼機の上反角よりも小さくてよい。

主翼全体ではなく外翼のみに上反角をつけている。
主翼全体ではなく外翼のみに上反角をつけている。同じような構成は、航空自衛隊で使われていたF-4戦闘機でも見られた。

 もうひとつ、横安定をもたらす要素が後退角だ。後退角は高速機が音速の影響を遅らせるためにつけるのが普通だが、同時に横安定を強める効果もある。

ジェット機の主翼には横安定をもたらす後退角がついていることが多いため、上反角は直線翼のプロペラ機よりも小さい。
ジェット機の主翼には横安定をもたらす後退角がついていることが多いため、上反角は直線翼のプロペラ機よりも小さい。

 ただし安定性が強すぎると、たとえばパイロットが旋回しようと機体を傾けても、それに対抗して元に戻ろうとしてしまう。とりわけ戦闘機や曲技機では、これは運動性能の悪化につながるし、旅客機や軽飛行機でも安定性は適度である方がいい。そのため、高翼式に後退翼を装備した飛行機には、横安定を弱める下反角をつけることもある。

横安定をもたらす高翼配置と後退角を組み合わせた機体では、横安定が過大にならないよう下反角をつける場合が多い
横安定をもたらす高翼配置と後退角を組み合わせた機体では、横安定が過大にならないよう下反角をつける場合が多い。
高い運動性を持つ曲技専用機のエクストラ300は上反角をゼロとしたうえで、翼型にも対称翼を採用している。
高い運動性を持つ曲技専用機のエクストラ300は上反角をゼロとしたうえで、翼型にも対称翼を採用している。
戦闘機でも過度な安定性は運動性を低下させることになる。
戦闘機でも過度な安定性は運動性を低下させることになる。高翼配置の後退角を持つF-15の主翼は1度の下反角となっている。

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