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ANAとシンガポール航空、共同事業契約を締結。共通運賃提供で便の選択肢が広がる
ANAとシンガポール航空が共同事業契約を締結。2020年に方針が示されたこの共同事業が、5年を経てついに実現した。共同運賃の提供で日本=シンガポール間の航空便に新たな選択肢を提供する。

ANAとシンガポール航空は4月17日、共同事業(JV、ジョイントベンチャー)契約を締結し、都内で調印式を開いた。この提携により、効率的な路線計画や乗り継ぎ地での接続改善、運賃体系の共通化が可能となり、利用者の選択肢が広がる。
また、2025年9月以降の搭乗便を対象にした日本=シンガポール路線の共同運賃を5月から発売することや、両社のマイレージプログラムでマイル積算対象となる予約クラスの拡大を予定していることも併せて発表された。
ANAとシンガポール航空は、2020年1月31日に戦略的包括提携契約を締結。当初は2021年冬ダイヤからのJV開始を目指していたが、新型コロナウイルス感染症の影響により延期されていた。その後2024年4月19日に日本の国土交通省、今年3月21日にはシンガポールの競争・消費者委員会から、JV展開に必須となる独占禁止法適用除外(ATI)の認可を受け、今回のJV契約締結につながった。
ANAはこれまで、アジア=中南米間でユナイテッド航空と、日本=欧州間でルフトハンザドイツ航空グループとJVを展開してきたが、アジアの航空会社との提携は今回が初めて。シンガポール航空は、ルフトハンザグループ、ニュージーランド航空、スカンジナビア航空、ガルーダ・インドネシア航空とJVを展開している。

登壇したANAの井上慎一社長は「スケジュール、運賃、その他のサービスに関して、両社のお客様はより多くの選択肢を持ち、どちらの航空会社を選んでもシームレスかつ高品質なサービスをお楽しみいただくことができます」とJVがもたらす利益を紹介。「インド、インドネシア、マレーシアは今後数十年で大きく成長することが見込まれておりまして、両社がこの成長に貢献できることに、私自身、大変ワクワクしております。アジアの架け橋として、多くの人が行き交うようになることで、両国の発展につながると確信しております」と挨拶した。


航空会社同士の提携はさまざまな形があるが、JV(ジョイントベンチャー)とはどのようなもので、乗客にとって具体的にどういったことが起こるのだろうか。
比較的、初期の段階において実施される提携の1つに「コードシェア」がある。他社の運航便に自社の便名をつけて販売することでネットワークの強化につながり、例えるなら友人のような関係だ。
次は「グローバルアライアンス」。ANAやシンガポール航空が加盟するスターアライアンスなどの航空連合がこれに相当し、こちらはクラブ活動や大学のサークルといったイメージだろうか。同じアライアンスに所属する会社同士が、コードシェアに加えて、マイレージプログラムやラウンジの利用などで共通のサービスが展開されるというのは、ご存じの方も多いだろう。
今回締結した「ジョイントベンチャー」は、コードシェアやグローバルアライアンスからさらに一歩踏み込んだ提携の形で、別々だった企業が同一であるかのように、共同でさまざまなビジネスを展開する。それはまるで家族のような関係とも言える。

乗客からの視点で分かりやすい変化としては、共通運賃が設定されることで会社をまたいだ旅程の価格が安くなることが挙げられる。一例として、4月16日時点の羽田=シンガポール間の最安値を見ると、往復でANAを利用した場合の運賃はおよそ12万円だが、往路にANAを利用し、復路にシンガポール航空を選択すると約30万円にもなる。これは、航空運賃は一般的に同じ会社で往復すると片道当たりの運賃は安くなるが、異なる会社の片道チケットを組み合わせると、ほとんどの場合高額になってしまうことによるもの。
これがJV開始後はどちらの会社でも同じ扱いとなり、シンガポール航空で日本へ帰ってきても、ANAの利用であっても12万円で済むといった具合だ。これらは両社が共通の運賃で販売し、収入を一元的に計上したうえで、それぞれに配分することで実現されるものだ(これはメタルニュートラリティと呼ばれる)。各社が運賃を個別に設定し、提携相手が運航する便を販売した場合にあとから精算するコードシェアとは、プロセスが根本的に異なるのである。また、運航スケジュールも両社で調整され、乗り継ぎ利便性の向上なども期待できる。
現在、日本=シンガポール間の運航は、ANAが羽田と成田を合わせて1日3往復。シンガポール航空は東京の2空港に加え、関西と福岡、名古屋(中部)にも就航しており、1日10往復でシンガポールとの間を結んでいる。これまでは利用航空会社をANAにするかシンガポール航空にするか、時間や就航地、運賃などを比較検討する必要があったが、今後は両社を合わせた1日13往復のフライトから自由自在に選択が可能となり、フライトマイルも自社便を利用した時と変わらない水準での積算を予定している。
なお、今回の提携は、ANAとシンガポール航空の便名がついたフライトのみが対象で、両社傘下のピーチやAirJapan、スクートが自社便として運航する場合は対象外だ。また、今回のJVは、オーストラリア、インド、インドネシア、マレーシアも対象国に含まれており、今後は両社で4か国におけるATI認可の申請を進めていく。
