連載
パイロットの負担を減らすピッチトリムの重要性~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
自動車はエンジン出力(アクセル)で速度を調整するが、飛行機ではさらに上昇や降下もコントロールできる。そのためには出力変更と共に操縦かんの押し引きによるピッチ(機首の上下)操作も行なう必要がある。
たとえば加速しようと出力を上げると速度が増えるが、速度が増えると揚力も大きくなってしまうから高度も上がる。もし高度を上げずに加速したいのならば、出力を上げると共に操縦かんを押して機首を抑えなくてはならない。逆に加速しないで高度だけを上げたいのならば、操縦かんを引いてやる。引きすぎると減速しすぎてしまうが、その場合は引きを弱くすれば速度を保てる。
いずれにせよ操縦かんをその状態に維持し続けるのは大変なので、姿勢が決まったらピッチトリムを使ってバランスを取る。訓練で使う小型プロペラ機の場合は縦のハンドルのような形、エアバス以外のジェット旅客機では操縦かんのグリップについているスイッチを使う(フライバイワイヤーのエアバス機はパイロットがトリムを合わせる必要がない)。
たとえば操縦かんを引いた状態でピッチトリムを「UP」にすると、だんだんと操縦かんを引く力が弱くなってくる。引く力がゼロになるのがバランスが取れた状態で、そうなれば手を放しても飛行機が自然とその姿勢を保ってくれる。操縦操作の負担が大幅に小さくなるわけだ。
また所望の高度まで上昇して水平飛行に入るときには、操縦かんを押して機首を低くしたうえで出力を絞る。その場合も、改めてピッチトリムを合わせなおす。
さらにフラップを動かしても機体の姿勢が変わるので、やはりピッチトリムを合わせなおす。パイロットは訓練の初歩から、このように飛行フェーズごとにピッチトリムをしっかりと合わせるように指導され、習慣化するまで体にたたき込むのである。
ピッチトリムの仕組みには、水平尾翼のエレベーター(昇降舵)を動かすものと、固定部分(水平安定板)を動かすものとがある(固定部分なのに動くのかよという突っ込みは面白くないので無視する)。
小型プロペラ機では前者が多く、エレベーター後縁にトリムタブと呼ばれる小さな翼がついている。ピッチトリムのハンドルを回すとトリムタブが動き、そこに働く空気力でエレベーターを上げたり下げたりする。ただしエレベーターに角度がついた状態は、中立(まっすぐ)の状態よりも空気抵抗が大きい。そこで多くの旅客機は水平安定板の角度を変更することで、エレベーターが中立でもバランスが取れるようにしている。
ちなみにパイロットがピッチトリムを操作する必要がないエアバス機でも、水平安定板の角度は調整できるようになっている。エアバス機の場合には、パイロットがサイドスティックで姿勢を決めたならば、あとは手を放してもその姿勢が維持される。姿勢を決めるまでは基本的にはエレベーターが動くが、その姿勢を維持するためには飛行機のコンピューターが自動的に水平安定板を動かすのである。
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