プロヴァンスの暮らしとともにあるラベンダー~旅のヒントBOOKより
皆さま、はじめまして! 旅のヒントBOOK編集部です。
旅のヒントBOOKは主に現地在住者やその地のリピーターを著者に迎え、大切な友人を案内したいスポットを厳選してご紹介するガイドブックシリーズです。
現在、50を超える国と地域がラインナップしています。
さらに、このシリーズから派生した海外関連のさまざまな書籍を製作しています。
今回は、フランスのプロヴァンス在住で、旅のヒントBOOKシリーズほかで著作がある町田陽子さんによる現地レポートをお届けします。
プロヴァンス地方とは――
フランスの南東部、プロヴァンス地方に住んで16年以上が経ちます。地中海に面したフランス第二の都市マルセイユや、フラミンゴが飛び交うカマルグ、画家セザンヌが生まれ育った文化都市エクス・アン・プロヴァンスなど、この地には魅力あふれる町や地域が多く、風景もバラエティに富んでいます。
フランスの新幹線TGVに乗れば、パリからアヴィニョンまで2時間40分。喧騒から逃れるように週末をすごすパリジャンや、移住してくる都会の人も少なくありません。コロナ禍での長期にわたるロックダウン生活をきっかけに、フランスでも自然が豊かでクオリティオブライフの高い場所で暮らしたいという人が増えています。実際、私はこの地に暮らし、生活の満足度は高く、自分らしく生きられる場所と感じています。
プロヴァンスを彩るラベンダー
季節ごとに表情を変える風景のすばらしさには、何年経っても飽きることはありません。とくに春から夏にかけては大地から次々と花や緑があふれ出してくるかのよう。好きな花はたくさんありますが、プロヴァンスの代表的な花といえば、なんといってもラベンダー。ただ、プロヴァンス中にラベンダーが咲いているわけではありません。
ひゅうひゅうと強い風が吹く、標高1,000mあたりのプロヴァンス高地。夏は暑く、冬は寒く、乾燥した地中海性気候で、石が転がるやせた土地。プロヴァンス出身の文豪ジャン・ジオノが描き続けた、荒野のプロヴァンスの世界がここにあります。6月下旬から7月にかけてこのあたりに来ると、紫色のラベンダー畑がパッチワークのように広がり、可憐な花穂が風に揺られています。これが、古代から薬用植物として利用されてきた「ラヴァンドゥ」。日本では真正ラベンダーと呼ばれるものです。
現在は広大な畑で育てられているラベンダーですが、19世紀の末までは、野生のラベンダーを牧童や女性たちが摘み、原始的な小さな器具で蒸留して精油にしていたそう。いまも高地では至るところに自生のラベンダーが咲いていて、それは畑で育つラベンダーとはひと味違う、楚々とした風情を漂わせています。
現在、低地ではハイブリッドの「ラヴァンダン」が畑で育てられていて、ヴァランソル高原や、有名なセナンク修道院をはじめとするリュベロン地域でもみごとなラベンダー畑を見ることができます。ラヴァンダンの方が株が大きく華やかなので、写真映えがよく、また交通のアクセスもよいため、むしろそちらの方が人気があるともいえますが、ずっと先まで続く誰もいない高地のラベンダーには、プロヴァンスの原風景が感じられるのです。
収穫を祝うラベンダー祭り
ラベンダーは美しいだけでなく、厳しい高地で農業を営む人たちの生計を支えてきました。精油にしておけば何年でも保存でき、作物が不作で生活が苦しいときに高額で売ることができる、大切な生活の糧でした。“プロヴァンスの青い金”といわれる所以です。
花の部分を太陽にかざすと、油分がきらりと光る。それが収穫のタイミング。美しい花で人々を楽しませたあと、精油に生まれ変わります。
7月後半から8月中旬にかけて、何ヶ所かでラベンダー祭りが開催され、収穫の喜びを皆で分かち合います。昔からプロヴァンスで大切にされてきたラベンダーは、いまも変わらずこの地の人々の生活とともにあります。
町田陽子 / Yoko MACHIDA
エッセイスト。プロヴァンスの町リル・シュル・ラ・ソルグ在住。シャンブルドット(宿)「ヴィラ・モンローズ」を夫とともに営むかたわら、執筆活動を行なっている。アンティークのコレクターでもあり、オンラインで販売している。
ヴィラ・モンローズ公式サイト
ヴィラ・モンローズShopサイト
旅のヒントBOOK
『南フランスの休日 プロヴァンスへ 最新版』町田陽子 著
なるべく公共交通機関で訪れられるなどいくつかの条件を設定し、短い滞在期間でプロヴァンス地方を満喫できるスポットをご紹介するガイドブック。代表的なプロヴァス料理やワイン、伝統菓子などの情報も。
A5判/192ページ/定価1,980円(税込)
季節で綴る南フランス213
南仏の美しい田舎町としあわせ暮らし町田陽子 著
「春のはじまり」から一年を7つの季節にわけ、プロヴァンス地方とコート・ダジュール地方の日常を213の写真とエッセイで綴る。この地に暮らす人たちならではの日々快適に生きていくための心の持ち方や、生活習慣などもご紹介。
四六判/240ページ/定価2,200円(税込)
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