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エンジンの進化を象徴する指標「バイパス比」 ~ 連載【月刊エアライン副読本】
【連載】ヒコーキがもっと面白くなる! 月刊エアライン副読本
「空のエンターテインメント・メディア」として航空ファンの皆さまの好奇心と探究心にお応えすべく、航空の最前線、最先端技術などを伝えている月刊エアライン。そんな弊誌でテクニカルな記事や現場のレポートを中心に執筆に携わる阿施光南氏が、専門用語やテクノロジーをやさしく紹介するオリジナルコラムです。
旅客機の経済性を高める鍵はエンジンであり、その進化を象徴するひとつの指標がバイパス比だ。これはターボファンが吸い込んだ空気のうち、燃焼室に送って燃やす空気と、エンジンの周囲を素通り(バイパス)させる空気の比を示す。数字が大きいほどバイパスさせる空気の割合が多いということで、だいたい燃費もよくなる。

初期のジェット旅客機である707やDC-8が最初に装備したのは、吸い込んだ空気をすべて燃焼室に送るターボジェットのJT3CやJT4Aだった。


しかしJT3Cの前方にファンを追加してターボファン化したJT3Dが開発されると、その効率の高さからこちらが標準装備されるようになった。JT3Dのバイパス比は1.42にすぎなかったが、吸い込む空気の量が増えたため推力も約1.4倍に増加した。

ワイドボディ旅客機の747用に開発されたJT9Dではバイパス比が一気に約5に拡大し、高バイパス比ターボファンという言葉も生まれた。ちなみにJT9Dのファン直径は約2.4mもあり、初期にはここにCAを立たせて巨大さをアピールする写真がよく使われた。そのため「高バイパス比ターボファンは大きい」というイメージが定着したが、もちろん小型エンジンでも高バイパス比にすることは可能だ。

たとえばA320ceoで使われているV2500の外観やサイズは低バイパス比ターボファンのJT3Dとよく似ているが、バイパス比は約3倍の4.5(ほぼJT9Dに匹敵)だから高バイパス比ターボファンといってもいいだろう。

V2500はJT3Dと比べて燃費がよくなっているだけでなく、推力も約1.4倍になっている。さらに小型のE170に装備されたCF34もバイパス比は5.3だから、やはり高バイパス比ターボファンといえるだろう。

現代の実用エンジンで最大のバイパス比を誇るのはA320neo用のPW1100Gだ。バイパス比は12.5で、正面からは直径2.06mのファンを通してコンプレッサーの翼列が見える。ここを通った空気だけが燃焼室に送られるわけだ。

ちなみにA320ceoが装備したV2500と比べるとエンジンの太さがまるで違うが、だからといって推力が大きくなったわけではない。なにしろA320neoとA320ceoはエンジン以外はほぼ同じ機体といえるから、さらに大きな推力は必要ない。ただ同程度の推力を発生するにも、少ない燃料消費で済むようにしたのがPW1100Gだということだ。

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